色魔の勲章 第3回【1】
色魔の勲章 第3回【1】
養子として虐げられた幼年期を過ごした男に宿った性への渇望。
●新聞拡張員
安高は中学を卒業すると、東京へ集団就職の一員としてやってきた。
だが最初の職場は二ヵ月で飛び出した。
名前を言えば誰でもが知っている一流ホテルのコックの見習いとして就職したのだが、毎日朝早くから夜遅くまでの皿洗い等の単調な仕事に嫌気がさしたのであった。
次に彼が就いた職業は新聞配達であった。
彼は販売店に住み込みで働くようになった。
食事の心配は無かったし、何よりも店で大切に扱ってくれるのがうれしかった。
しかしこの店も約半年勤務してやめた。
新聞の拡張員となったのである。
この拡張員となったことが結果としては災いした。
彼の女好きな性格がその姿を現わし始め、火に油を注ぐようなことになってしまったのである。
各新聞社は、それぞれの系列の拡張員を持っており、彼らは実績をつくるために、それこそ眉をひそめたくなるような販売合戦を行なっている。
タオルやらポリバケツを持った拡張員に訪問され、執拗な勧誘に閉口された読者も大勢いることであろう。
安高が童貞を捨てたのは拡張員の仕事にも慣れてきた、この世界に入って三ヶ月めのことであった。
班長からこれから先一週間の目標地として指定された都内の北部にあるA団地を回っている時のことである。
ブザーを押したが返答がない。
ドアの把手に手をかけると鍵がかかっていない。
思い切ってドアを開けると中から、
「どなた?」
との声がする。
「済みません、A新聞社から来ました。奥さんの家では何を取っていらっしゃいますか」
「あら、拡張屋さんね」
と言いながら部屋の奥から出てきた女は、三十五歳ほどの、目に好色の光を浮かべた、ほっそりとしたスタイルの主婦であった。
「あら、あなた新顔ね。お若いのね、おいくつ?」
女の堂々とした、いかにも中年の図太さを感じさせる応待にどぎまぎした安高は、それでも女の顔を見すえて、
「十七歳です」
と答えた。
「あらずいぶんお若いのね。お仕事大変でしょう? お茶でも飲んでいらっしゃって」
そう言うと女は、安高の返事も聞かず、台所の方へ行き何やらがさがさと音を立てていたが、間もなく盆の上にお茶を載せて持ってきた。
安高もそこまでされて断わる訳にも行かず、勧められるままお茶に手を出した。
何やら顔のあたりに視線の気配を感じて振り向くと、女がじっと意味ありげな目を安高に注いでいた。
安高も女との経験があれば、ある程度の余裕を持ってこの場に対処出来たのであろうが、何しろまだ童貞である。
それでも無理矢理に顔に笑顔を浮かべてみた。
女は能面のような表情で安高をしばらく熟視していたが、掠れる声で、安高には信じられないようなことを言った。
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