『禁断異系の美術館2 魔術的エロスの迷宮(書苑新社)』
レビュアー=四日市
「全編にわたって、言ってしまえばグロくてコワくてエグくてヤバいアートに満ちている――(四日市)」。ゴシック・ヴィジョンや魔術的エロスの創造者、デカダンに耽溺する者、少女幻想を追い求める者など、異系の作家たちをパラノイアックに集め、論じた未曾有の書。「禁断異系の美術館\x87T〜エロスの畸形学〜」 に続く相馬俊樹の真骨頂!!
『魔術的エロスの迷宮』と題されたこの本は、装丁とタイトルからわかるようにゴシックやモダン・ホラーの影響を多々受けたアートについて書かれている。特に、昨今「ゴスロリ」と呼ばれ「かわいさ」との共存を目指した道とは真逆の方角へ消費されつくした結果、名状し難い唾棄すべき反キリスト的な世界観を生み出すに到った近代のアートに偏向して論じている。否、論じているのではない。これは迷宮へ迷い込んでしまった著者の狂い咲きの姿だ。
今は亡き『S&Mスナイパー』やトーキングヘッズ叢書、『ユリイカ』などにて発表された著者・相馬俊樹の原稿をまとめたこの本は「dark and gothic visions」「magical eros」「decadent visions」「forbidden dreams」「library noir」と題された五章に分けて、有名無名・国内外を問わず様々なアートが紹介されている。
「dark and gothic visions」では冒涜的なモチーフ、奇形化した女体などグロテスクなアートの数々が、「magical eros」では幻想的なシチュエーションの中に剥き出しのエロスを溶け込ませたイメージ、「decadent visions」は退廃的で無機質な、死の気配の付きまとったアート、「forbidden dreams」は少女に対する幻想だが、ナボコフがロリータに描いたのとは裏返しの、マザーグースの詞に通ずる恐ろしさを感じさせる。第五章の「liberary noir」のみ、小説の書評となっている。全編にわたって、言ってしまえばグロくてコワくてエグくてヤバいアートに満ちているため糖衣された世界しか見たくない人はこのあたりで退散しておいたほうが幸いだ。
本の目的はアートの紹介であるはずだが、しかしこの本のおもしろさはこれがただのカタログ本にはなっていないところにある。魔術的な想像力によって描かれたアート世界へ入り込み、解釈しようとする著者の過剰とすらいえる妄想の錯乱がまさに、意識の迷宮とも言える入り組んだ世界観をテキスト上に作り上げている。取り上げられた作品に対して著者は、製作者の生まれ育った環境や軋轢を、散りばめられた記号からは、それらの象徴する太古の神々や伝承の数々、古代の悪魔崇拝からチャールズ・マンソンやアレイスター・クローリーなど近代のカルトまでの歴史を豊富な知識で遡る。
私はアートそのものよりも著者の脳に蓄積された、かつて世界がまだ現実世界の様々を魔術や異界の存在によって説明していた頃の想像力が、捩れ、歪み、誤解されながら膨張を続けた現代にまで紡がれた変遷に、その先端にいまも描き出される幻視のアート、その魔術に祈りを捧げる異教の司祭たる筆者のパラノイアックな脳迷宮に映し出される解釈の魔術を巡る旅にこそ、一睡と一酔の狭間の眩暈を感じるのだ。
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