『絶対君主症候群 (日本文芸社)』著=イワシタ シゲユキ
レビュアー=ばるぼら
人は誰しもSでありMである――
そんな人間の本質に鋭く切れ込む衝撃作、ここに解禁!!
掲載誌『コミックブレイク』が連載第3回目で休刊(2009年10月号)となり、以降はケータイコミックサイトでの連載。そのせいで雑誌派のマンガ読者には今ひとつマイナーな作品であり、かといってケータイ向け連載版は自主規制のせいで話を追うことすらままならない状態だった。つまり紙とケータイのどちらの読者にも完全な状態で届いていなかった気の毒な作品だ。そういう状況でようやく出た単行本が、この第1巻である。
物語のおおまかな展開はこうだ。母親と暮らすごく普通の大学生である拓人と、ひょんなことから同じ屋根の下で生活することになったいとこの桐子。美人で性格もよく、誰からも好かれる桐子は、実は拓人と二人きりになると拓人をいじめまくるドSだった。しかしある時、拓人は桐子の本性がドMであることに気付いてしまう。主従の関係は逆転する……。
「絶対君主症候群」というタイトル、およびオビ文句「衝撃エキゾチックSM全・面・解・禁」から考えられるように、この作品はSMマンガである、とまずは単純に理解していい。だがこの第1巻で描かれるのはSMの細かなプレイ内容ではない。縛りもボンデージも、当然裸も出てこない。では何かといえば心理劇である。「自分の本質から目を背けて正反対の自分を演じてしまう厄介な人もいたりしますからね」という同級生の言葉を経て、自分でも気付かなかった S性を自覚する拓人の冷たい表情。そして、こらえ切れなくなったM性がにじみ出る桐子の表情。この表情に至るまでの「自分を認められない」人間の心理の描き方が、自分はノーマルだと思っている読者を揺さぶる。面白さはここにある。
また、この作品は構成が上手い。第1巻に収録されている話はいずれも毎回2種類の主従関係(M拓人とS桐子、S拓人とM桐子)が描かれており、まず両極のふり幅で読者の興味を集める。話を進めるごとに、その「複雑怪奇な関係」に至るまでを明かしていき、盛り上がりのピークとなる1巻のラストで両軸の時間が一致する。このじわりじわりと近づいていくスリルは、ハリウッド映画的ではなく日本映画的とでもいえばいいだろうか(そのぶん2巻以降の構成が難しそうだが)。
オビで「主従逆転!!」と最初からバラしてしまっているように、逆転自体は結果ではなく通過点でしかない。第1巻ではS側は単に攻撃的であり、M 側は単に被虐的である。しかし教科書的に考えれば、SMの根底にあるのは信頼関係だ。二人が最終的にそこに辿り着くSMマンガとして描かれるのか、それともSMは単に物語のスパイスで、もっと別の結末に辿り着くのかは、今後の展開を見守るしかない。どのように進むのかを期待させる第1巻だった。
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