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▼ 『愛の小さな歴史(株式会社インスクリプト)』著者=港千尋
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『愛の小さな歴史(株式会社インスクリプト)』港千尋=著

レビュアー=ばるぼら

アラン・レネ、マルグリット・デュラスが映画史に残した傑作『ヒロシマ・モナムール』。撮影当時の広島を撮った写真が再発見されたその主演女優エマニュエル・リヴァとの出会いに導かれながら、映画の生成過程に分け入り、時間と記憶、写真と夜と死をめぐる考察を織りあげる映像論の冒険。


著者は1960年生まれの写真家であり写真評論家で、写真を起点にした図像・映像論や、記憶・記録についての著作を多く発表している。『愛の小さな歴史』も写真を出発点にしたテキストであることは一緒だが、ただの写真論ではない。写真も映像も含めた「歴史」と「記録/記憶」についての考察が主軸にある。

話はエマニュエル・リヴァが撮った約50年前の広島の風景写真を著者が偶然手にしたことから始まる。エマニュエルは、「二十四時間の情事」の邦題で知られる、アラン・レネ監督の日仏合作映画『ヒロシマ・モナムール』(1959)に出演したフランス出身の女優だ。まず著者はこの写真が本当に彼女が撮ったものか調査をはじめ、その過程で『ヒロシマ・モナムール』にまつわる監督の手紙、ノート、写真などのエフェメラを通じて「マイクロストーリー(ミクロストリア/微細な歴史)」を炙りだし、映画を生み出した時代背景と文化へまなざしを向ける。

実際にこの時発見されたエマニュエルの写真は写真集『HIROSHIMA 1958』として2008年に発刊されており、本書はその過程を記したドキュメントとしても読めるが、全体としては『ヒロシマ・モナムール』を未だ語られていなかった角度から投射した映像論である。この「未だ語られていなかった角度」が、あまりにも注意深く、綿密な視点であること(また、その視線に耐えうる映画であったこと)に、本書の面白さの核がある。それは例えば、写真に写った2歳の子供が52歳の夫人になっているような、写真に直接印画できない「時間」の流れを実際に経て、写真や映像の「記録」は、そのフレームの中に何を残そうとし、実際に何を残しているのか(何を残さなかったのか?)。そして写真や映像が容易に「見える」ものであることから起きる油断を認識した上で、私達はそれをどう「見る」のか。その問いかけに対する著者の思索と観察の道程でもある。

本書は「エマニュエルが撮らなかったこと」の存在を最後に示す。エマニュエルと彼女に関わった人々に著者がまなざしを向けたことによって描写が可能になったマイクロヒストリーがある。そして読者は『愛の小さな歴史』というタイトルに気付く。タイトルからはまったく想像の出来ない内容で、しかしタイトルは確かに本書を的確に要約している。「愛」と「小さな歴史」が、それぞれ単一ではなく幾重にもなって積み上げられた構成は、読み終わってようやくなるほどと思う。

区別される「ショートヒストリー(小史)」と「マイクロヒストリー(=小さな歴史)」。曖昧な記憶を上書きする写真の優位性と懐疑。細部の痕跡が無意識へ作用する効能と古い写真の関係。マクロとミクロの入れ子構造……等、本書には他にも沢山の要点があり、いずれも刺激的な内容であるが、それらは実際に本書を手にとって確認していただきたい。

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『愛の小さな歴史(株式会社インスクリプト)』
著者=港千尋
発行:2009年12月5日
定価:2500円+税
ISBN:978-4-900997-25-7
発売元:株式会社インスクリプト

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