文=アニエス・ジアール
『S&Mスナイパー』本誌でおなじみの在仏カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアール&フランシス・ドゥドブラー。親日家でもあるお2人が、世界のフェティッシュ事情をお届けします! 今月のテーマは、2人もしばしば利用するという一軒の本屋。さぁ、一緒に中をのぞいてみましょう……。
東京は中野のブロードウェイにある本屋『タコシェ』は、日本のアンダーグラウンドなアーティストを見つけるには最高の場所! タコシェと同じような本屋がパリにある。『Un Regard Moderne(現代世界の覗き穴)』だ。
ここは、過激で倒錯したファンタジーの総本山。紛れもないカオス。しかもこの本屋は本当に小さいので、本はあちこちで積み重なっていくつもの山ができている。今にもなだれが起きてしまいそうなのだ。もし、本のなだれがおきたら負傷者が出るにちがいない。人が、この見たこともないような本屋に入るとき、きっと登山をするような感覚になるだろう。
本屋の主人ジャック・ノエルは、異邦人のように独特の雰囲気を持った男だ。彼はまるでドラゴンのような不気味な笑みを浮かべながら、訪問客を本の山の頂から迎え入れる。訪問客は、この本屋の主人に自分が望むすべての本を求めることができる。
「拒食症の女の子の下着姿の写真はありますか?」
「第3ライヒ(ナチス・ドイツ )の出版した本はありますか?」
「動物の礫死体の写真集はありますか?」
等々……。この本屋では、ドラッグ、倒錯ポルノ、宗教、レイプ、ロリータ・コンプレックス、人道的に違法な解剖、自殺、フェティッシュ・ピンナップに関する本がたくさん見つかる。
私は、ほとんどど幻になってしまった最高の本のいくつかをここで見つけた。たとえば、シリアルキラー(連続殺人犯)のジェラルド・シェイファーの『殺人日記』だ。このシリアルキラーはとても興味深い。シェイファーは女性を誘拐し、殺す前にその女性と話をする。こういうシリアルキラーが犠牲者と会話することはとても珍しい。普通、シリアルキラーというものは犠牲者を怖がるから。
殺人者は、哀れな犠牲者を気絶させるか、何も話をしないようにさせる。そうして初めて、犠牲者を「ただの肉」だと認識するのだ。シェイファーが興味深いのはその点だ。このシリアルキラーは、自分がどのようにして犠牲者と出会ったか、何をしたか、何を話したか、どうやっていたぶったかをフィクションの本にまとめた。シェイファーはとてもサディスティックで、犠牲者をレイプする前に怖がらせることがお気に入りだった。犠牲者に希望のかけらを与えることに残忍な悦びを感じた。哀れな女性はそこに生き残る見込みを見いだす。そして時々、逃げるためにシェイファーを喜ばせた。その後、シェイファーは必ず女性たちを殺した。
『殺人日記』には、新たなSMの兆しを見出すことが出来る気がする。
本当にゲスな変態なら、この本でオナニーもできるでしょう。
ジャック・ノエルは監視されている。フランス国家は、この本屋に送られて来る全ての本を検閲する。ジャック・ノエルは顧客の好みを知っており、彼は自分の仕事についてこう語る。「私は薬剤師のようなものだ。人々が『快復』するように、ちょっとした薬を与えている」と。
顧客にとって、本、写真集、ファンタジーは薬なのだ。日本では、フィクションの作品は危険でないと思われているので検閲がない。一方フランスでは、宗教上の倫理観から大多数の人間がイマジネーションを規制する必要があると考えている。全ての言論の自由に賛同するジャック・ノエルは、だからこそ特異な人物と言えるのだ。ジャックにとって本当に危険なこととは、人々がイメージの中で自らのサディズムを禁じるということ。
欧米諸国では、たくさんの抑制、タブー、違法なものが人々を失望させる。そして、不満を抱えた人々は、しばしば凶暴になってしまうのだ。
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