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▼ すあまにあ倶楽部 第56回 歯が痛い

文=抱枕すあま

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↑宍戸錠著『シシド 小説・日活撮影所』(新潮社)。


半年くらい前のことでした。いつものように、駅のKIOSKで大好物の『ボンタンアメ』を買い、15秒に1個のハイペースで食べていると、なにやら硬いモノが中に入っていました。口の中から取りだしてみると、それは銀色の塊でした。

一瞬、「なぜこんなモノがボンタンアメの中に入っているんだ!?」と驚きましたが、よくよく見てみると、それは私の奥歯に詰められていた銀歯だったのです。その後、奥歯に穴が空いたままでしばらく放っておいたのですが、先日、ついに反対側の奥歯までもが痛み始めたのです。

そんなある日のこと。朝起きて鏡を見てみると、そこには宍戸錠がいました。


私は驚きました。

「な、なぜ宍戸錠がウチにいるんだ!?」

そして、

「ひょっとして、やっちまったのか!?」

という後悔の念がふつふつと湧き上がりました。

よく、ドラマなんかを見ていると、泥酔して意識をなくし、翌朝目覚めたら知らない女性がベッドの横に寝ていたなんて話がありますよね。今まで、ずっとモテない人生を歩んできた私は、ゆきずりの恋というものに憧れていたのです。しかし、その相手が、よりによって宍戸錠とは……。

俳優としては好きな方ですが、ベッドで一夜を過ごしたいという意味の好きではないのです。しかし、落ち着いて鏡をよく見てみると、それは両頬を腫らした自分自身の顔だったのです。生まれて初めて、自分がモテなくてよかったと思いましたよ。

だけど、朝起きたら知らない女性がベッドの横に寝ていたなんて、夢のような話ですよね。私には、絶対に無理なことなんですよ。いやいや、モテるとかモテないとかいう問題じゃないですよ。だって、私はベッドではなく、布団で寝てますからね。

なぜベッドではなく布団で寝ているかというと、ベッドにしたら、寝ている間に抱き枕ちゃんたちを床に落としてしまい、骨折させる危険性があります。そんなことになったら、生理でもないのに、体育の授業を休ませないといけなくなります。

そんな訳で、私はしぶしぶ歯医者へ行くことにしたのです。歯医者だけは、できるなら行きたくなかったのです。子供の頃はそうでもなかったのですが、大人になってからは、歯医者へ行くことがとてもイヤになりました。いや、どちらかというと、腹立たしいといった方が正しいかもしれません。だって、頑張って歯医者へ行っても、誰も褒めてくれないし、オモチャを買ってもらえないのですから。

とはいっても、猛烈な痛みで仕事に集中することができません。もっと困ったことに、いつものように仕事をサボることにも集中できないのです。それに、両側の奥歯が痛いと、何も食べることができません。刺身が硬い食べ物だということを、先日、生まれて初めて知りました。

しかたがないので、私は会社から一番近いという理由だけで選んだ歯医者へ行くことに決めました。とにかく、この痛みから少しでも早くおさらばしたかったのです。私は、仕事を抜け出して歯医者へと向かいました。この歯医者はビジネス街の中心地にあるため、子供など一人もおらず、スーツを着たサラリーマンばかりが順番待ちをしていました。

初診ということもあったので、最初にレントゲンを撮り、今後の治療方法について先生が事細かに説明してくれました。しかし、私は気が散ってしまい、それどころではなかったのです。だって、歯医者の中がリラックマのキャラクターグッズで溢れかえっていたのですから。

なぜ、サラリーマンしか来ない場所なのに、リラックマなんだろう……。スーツ姿のオッサンたちが、可愛らしいリラックマのカップを使ってうがいをしている光景は、なんともいえないものがありました。だけど、リラックマって、本当はただの着ぐるみで、中にはオヤジが入っているという噂を聞いたことがあります。この歯医者と何か関係があるのかもしれません。

とりあえず、歯医者での初回の治療は、大声を出して泣きもせず(ちょっと泣いたけど)、無事に終わりました。もちろん、オモチャは買ってもらえませんでした。痛み止めの薬ももらったので、これでようやく仕事をサボることに集中できます。

歯医者から会社へと戻ってみると、私の机の上にメモ用紙が置いてありました。

『ミミズさんから電話がありました。折り返し、電話をしてください。 A子』

はて、ミミズさんって誰だろう? 環形動物門貧毛綱のミミズさんのことだろうか? となると、いま仕事で付き合いのあるイトミミズさんからかもしれない。だけど、フトミミズさんから昔の仕事のことで電話がくる可能性もあるし……。

ひょっとすると、A子さんがゴカイさんと名前を聞き間違えたかもしれない。だけど、彼は脚がいっぱい付いているから、ミミズさんと間違えることはなさそうだし。なにせ、彼は環形動物門多毛綱だしな……。

しかし、ミミズさんから電話だなんて、なんの用件だろう。もしかして、この前、居酒屋でアメンボさんと飲んでいたとき、「生きているからみんな友達だっていうけどさ、ミミズだけは友達じゃないよな」って言ったのを聞かれたとか……。

別に、ちんこを腫らして巨根にするために、ミミズさんにおしっこをかけた覚えもないから、居酒屋での会話を聞かれていたことくらいしか考えられないな……。

そういえば、その後で行ったキャバクラ『手のひらに太陽』で、ボラれたんだっけ。おかげで、お金をすべて取られちゃって、オケラになったんだよ。もしかして、あのキャバクラはミミズさんが経営しているお店で、仕返しをされたのかも。どうしよう、私の真っ赤な血潮が噴き出すような事態に陥ったら……。

ひょっとすると、ミミズさんと一緒に行った乱交パーティーの時の暴言で怒っているのかも。ちんこを挿入したとき、「お前のマンコ、ミミズ千匹じゃない!!」って叫んじゃったからな。しかし、ミミズ千匹ってすごい言葉だよな。だって、実際にやったことはないけど、なんだか気持ち良く思えるのだから……。

さてはて、どの件でミミズさんから電話があったのだろうか? 私は、おそるおそるメモを書いてくれたA子さんに聞いてみました。

す「あのさ、この電話をくれた人なんだけど、かなり怒ってた?」

A「いや、そんなことないですよ」

す「虫をバカにするなとか、言ってなかった?」

A「は? 虫ですか? そんな話はなかったですよ」

す「すあまの身体を真っ赤な血で染めてやるとか言ってなかった?」

A「なんの話をしているんですか? ただ単に、席に戻ったら電話が欲しいという話しかありませんでしたよ」

す「だって、ミミズさんから電話があったんでしょ?」

A「ミミズが電話をしてくる訳がないじゃないですか! さっきから変なことばかり言って、いい加減にしてください!!」

す「ほら、ここにミミズって書いてあるじゃん」

A「それは、ミミズじゃありません! シ・ミ・ズ(清水)です!!」

す「あっ!」


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