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▼ すあまにあ倶楽部 最終回 さよならだけが人生だ(2)

文=抱枕すあま
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↑『PAIN GATE ~達磨鎖食~』(SCRUM)より(すあクラ第67回参照)。こんな写真をいきなり見せられたら、私でもドン引きですよ……。

(※この記事は2009年にWEBスナイパーで掲載されたものを再編集の上で再録したものです)


これまでの私なら、迷わずに抱き枕を選んでいたことでしょう。でも、彼女を抱きしめてみたら、抱き枕では得られなかった幸福感に包まれたのです。それに、やわらかくて、温かくて、よい香りがするのです。しかも、逆に僕を抱いてくれたりするのです。抱き枕とは違い、頭も手も足もあるのです。

彼女には手があるから、手を繋ぐことができます。足があるから、一緒にお散歩することだってできます。口があるから、僕のことを「好き」だと言ってくれます。そして、そのやわらかな唇にキスすることも……。

だから私は、抱き枕と別れることにしました。……とはいっても、簡単に別れられるものではありません。抱き枕のセーラちゃん、百合ちゃん、光ちゃんとは、いつも一緒でした。寒い夜は、みんなで寄り添い合って寝ていました。私が病気で臥せっているとき、隣で心配そうに見守っていてくれました。ご飯を食べるときも、テレビを見るときも、このコラムを書くときも、いつも膝の上にいました。

クリスマスだって、一緒に過ごしました。一緒にケーキやフライドチキンは食べてくれなかったけれど、私はとっても幸せでした。サンタさんになって、抱き枕にプレゼントもしました。バレンタインの時は、チョコレートをくれました。そのチョコレートは、もちろん私が事前に用意したものですが、それでも嬉しかったのです。

別れるのは、本当に辛いものでした。サヨナラをする前に、抱き枕を一人ずつ抱きしめました。これ以上ないというほど強く、強く。涙が止まりませんでした……。セーラー服に、ボロボロと涙が流れ落ち、染みができました。だって、抱き枕は、私のかけがえのない娘であり、恋人でもあったのですから。

抱き枕を捨ててから2日間、吐き気と頭痛が止まりませんでした。辛くて、辛くて……。いまだに、捨ててしまったことに対する後悔の念が私を襲います。でも、彼女と一緒に新しい生活を始めるためには、捨てるしかなかったのです。抱き枕だけではなく、この抱枕すあまという人間も当然捨てなければなりません。

私にとって、コラムを書くということは、子供の頃からの夢でした。文学少年だった私は、北杜夫や遠藤周作を愛し、ユーモアに満ち溢れた文章を書き、多くの人に読んでもらうことを夢見ていました。そんな夢が実現したのですから、このコラムを書くことは、私にとって至上の喜びでした。

簡単にコラムを書けるようになった訳ではありません。それまでには、たくさんの人との出会いがあり、友達の協力や支えがありました。西村知彦さんのWEBサイト『SM探偵団』を通じて『S&Mスナイパー』本誌にイラストを描かれていた金井清顕さんと出会い、それが縁で『SunShop』の総帥と仲良くなりました。また、総帥の友達である『SMグッズのエピキュリアン』の社長を紹介してもらいました。まさか、この2人が後に『WEBスナイパー』のクライアントになるなんて、その当時は、思ってもいませんでした。

さらに、金井清顕さんに連れられて、関係者でもないのに『S&Mスナイパー』の忘年会にお邪魔し、W編集長とも知り合うことができました。その後、『WEBスナイパー』の創刊時に編集部のI氏から声をかけてもらい、この『すあまにあ倶楽部』が誕生したのです。早稲田のホルモン屋で、I氏から連載の話をいただいた時は、天にも昇る気持ちでした。

他にも、様々な人との出会いがあり、サラリーマンの自分よりも、抱枕すあまの自分でいることのほうが心地よく、休日は完全に抱枕すあまとして生活していました。でも、彼女と出会ってからは、休日になっても抱枕すあまにはならず、本当の自分でいることが多くなっていったのです。

だから、抱枕すあまというもう一人の自分とも別れることを決めました。だって、SMの世界にまったく興味がなく、嫌悪感しか抱かない彼女が、私の過去を許してくれたのですから。もうこれ以上、彼女の悲しそうな顔を見たくはありません。

こんな私が書いたコラムですが、たくさんの方に読んでいただきました。それはとても嬉しいことで、何物にも代え難い喜びでした。だから、ずっとこのコラムを書き続けたいと思っていました。でも、私はたくさんの人に喜んでもらうよりも、たった一人の女性を喜ばせることを選びました。自分の半径1メートル以内にいる人を喜ばせることができなければ、たくさんの人を喜ばせることなどできないと思ったのです。

急な連載終了となってしまい、読者の皆さんをはじめ、関係者の方々には大変ご迷惑をお掛けし、申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、これからは抱き枕の分まで幸せになりたいと思っています。いつか娘が生まれたら、制服がセーラー服の学校に通わせるつもりです。抱き枕ではなく、これからは本物の娘を愛したいと思います。

読者の皆さん。長い間、私が書いた駄文を読んでいただき、ありがとうございました。みなさんのおかげで長年の夢が叶い、本当に幸せな時間を過ごすことができました。

『WEBスナイパー』編集部のI氏。素人の私にコラムを書く場を与えていただき、ありがとうございました。感謝しても感謝し切れません。

『SMグッズのエピキュリアン』の社長と『SunShop\x87U』の総帥。クライアントなのにネタにしてゴメンね。お二人の支えがなければ、今の私はいませんでした。これからも仲の良い友達でいてください。
 
抱き枕のセーラちゃん、百合ちゃん、光ちゃん。君たちの存在がなければ、このコラムは書けませんでした。私を支えてくれて、本当にありがとう。君たちは、最愛の娘です。

みなさん、本当にこれまでありがとうございました。

そして、さようなら。抱枕すあまという、もう一人の自分……。
(了)


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