花嫁奴隷〜渚〜【51】
「ああぁぁぁぁっ」
渚が首を左右に振り立て、鼻の穴の綿棒がバラバラと振りまかれた。
同時に、ワイヤーの巻かれた歯が折れて鉄アレイが床に落ちた。
竜二はその鉄アレイを無言で拾い上げると、クルリと振り向いて竜也の背中に投げ捨てた。
ぐあぁっ――と唸り声を上げた竜也の見開いた目を、熱蝋の滴がボタボタと打った。
「ひぇっへっへ……竜也ぁ、お前、片目が潰れちまったじゃないか。なら、お前の嫁さんも同じようにしてやったほうが夫婦っぽくなるだろ、んー?」
竜二が、ぶら下がった蝋燭の一本をもぎ取り、渚に向き直った。
そして「ほれっ、ほれっ」と全身に熱蝋を振りかけていく。
素肌に蝋がかかるたびに、悲鳴を上げてのけ反る渚の爪先が床を掻いた。
天井のレールが軋んで嫌な音を立てる。
そして――運命の瞬間が訪れた。
渚の身体が後ろに振れ、直後に前へ戻ろうと傾いた時である。
滑車が移動したことで、ぶら下がった蝋燭の火にあぶられていた吊り縄が、ブチリと音を立てて切れた。
前方へ倒れ込んでいく渚の身体が、目の前にいた竜二に激突した。
おっ――と声を洩らした竜二が、床に垂れていた蝋で足を滑らせ、よろけながら二、三歩後ろへ後退し、竜也の横腹に躓いて転倒した。
(つづく)
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