〜堕落妻・律子〜【1】
料亭風の古い和室である。膳が三つ。お銚子と、二、三種類の小鉢がのっている。
浴衣姿でくつろいだ男たちは、すでに相当飲んでいる様子で、猪口を置くこともなく品のよくない冗談を言い合っている。声が大きい。しかし店主から文句を言われるような気配もない。それもそのはず、ここは表向き高級料亭を装いながら、実際には置き屋の女を客に抱かせる、昔ながらの遊ばせ茶屋なのである。
シロアリでも棲んでいそうな飴色の柱も、煤けた襖も、これまでいくつもの痴態を眺めてきた年代物で、鼻を近づければ臭いすら卑猥に酸っぱい。この場にいるだけで劣情が煽り立てられるような、安い岡場所の見本みたいな風情である。
三人の男は、そのうち二人が威勢のいいあんちゃん風。いつでも性欲を持て余していそうな脂っこい肉体派で、色事においては恥も外聞もなく下劣になれるというふてぶてしさが滲み出ている。そしてもう一人は、勢いのある二人とはまったく対照的に、線が細くて気の弱そうな事務員風。実際、年齢も先の二人より五つは若く、酔ってはいるが飲みつけない様子で終始うつむき加減でいる。
三人がどういう取り合わせなのかは分からないが、ガン首揃えて不埒な店に来ている以上、いずれ気の置けない遊び仲間ではあるのだろう。
「よお、よお、姉ちゃん。なんか表情暗くねぇか? 固くなんないでさ、あんたも一杯やんなよ」
中央に座ったリーダー格の男・花岡が言い、紅一点、自分の横に座らせた店の女を抱き寄せた。その手付きには遠慮のない粘着性がある。抱き寄せながら、襦袢一枚でいる女の肩から上腕をゆっくりと揉むように撫で、伸ばした指先では乳房の膨らみも存分に堪能している。
「はい……」
大人しく身を任せながら猪口を持ち上げた女は、ありがとうございますと小声で言って口を湿らせ、美味しゅうございますと首を傾けてしなを作った。襦袢の合わせ目にはすでに花岡の手が侵入しているが、大して気にした様子もなく自由に遊ばせている。
歳は四十代半ばといったところ。憂いを湛えた大きな瞳は熱があるように潤んでいる。どこか茫洋とした陰気さはあるが、正座をしたことで柔らかく張った腰回り、太腿回りには、女盛りの濃厚な色香がぷぅんと匂いたっていた。乳白色の肌はきめ細かく、しかもぬめったような透明感がある。
(つづく)
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