〜堕落妻・律子〜【2】
「姉ちゃん、あんた、ほんっとにイヤラしい体してんなぁ……」
襦袢の中で乳房をこねくり回していた花岡が、しみじみと言って酒臭い息を吐いた。
「名前は、なんて言ったっけ?」
「律子……と申します」
そこへ「なあおい」と堪えきれなくなった様子で割りこんできたのは、花岡と同様、全身に好色な気配を漲らせた男・一条だ。
「あんたさ、何でこんなとこにいんの?」
優しさのかけらもない質問をいきなりぶつける。
「はい……それは……いろいろと事情がございまして」
「えっ何、旦那は、旦那はいるの? これ知ってるの?」
事情、と聞いて野卑な好奇心を剥き出しにした一条が、ややピント外れな質問で食い下がる。
「今は、おりません」
「今は? じゃあ、前はいたんだ」
「はい、……私立高校の、教師をしている方でした。立派な方です」
「ふぅん、で、なんで偉い先生の奥様だった人が、今は娼婦になってんの?」
ようやく質問の流れを戻した。
「それは……申し上げました通り、いろいろな事情で……」
「だからさ、その事情を聞かせろって言ってんだよ」
少し気が短いのか、だみ声を大きくして太い首を伸ばし、律子の顔を覗き込む。花岡がそれを煽るように、
「いいねぇ、不幸な身の上話ってやつ? チンチン勃ってきちゃった」
と言って空気をますます下世話なものに落とした。
事実、花岡のヘチマのような男根は、浴衣を割って膳を倒さんばかりにそそり立ち、先端をぬらぬらと光らせて天井を睨みつけている。
律子がそれにチラリと目を落とした。
そして、分かりました、お恥ずかしい話ですがと言って軽く居ずまいを正した。
「ショーが始まるまでの余興に、お話いたします」
猪口に残っていた酒を一気に煽る。もともと潤んでいた瞳がますます妖しく濡れ、光っていた。
「いよっ、待ってました!」
一条が膝を叩いてガバと立ち上がった。そして身振り手振りを交えつつ節をつけるように、
「それでは只今より、元金持ち教師の奥様で、今は本番でもSMでも何でもヤラせる最下級娼婦に転落した、美人マゾ熟女律子の、不幸な不幸な身の上話を始めまぁす! はい拍手、拍手ぅっ」
そう言って自ら手を叩いて場末の司会者を気取った。
乗っかった花岡が小鉢を叩いて鳴らし、
「いやぁ、ソソるねぇ。堕落した美人妻!」
と調子を上げる。さらに学生風の男にも、「ほら、お前だって聞きてぇだろうが。初めてだからって緊張してねぇで、手ぇ叩くなりなんなりしろよ」と肩に拳骨を当てて無理やり拍手を促した。
学生風の男は気押されたように二、三度手を叩いてみせると、胡坐を組み直して背筋を伸ばし、締まらないなりに一応は聞く姿勢のようなものをとった。
律子が、小さく先払いをする。
そして訥々と語られたのは、こんな話であった。
(つづく)
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