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▼ 〜堕落妻・律子〜【2】

〜堕落妻・律子〜【2】


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「置き屋に落ちた恩師の妻(大洋図書)」より
脚本=竹中ハモニ
著者=芽撫純一郎

〜堕落妻・律子〜【2】

「姉ちゃん、あんた、ほんっとにイヤラしい体してんなぁ……」

襦袢の中で乳房をこねくり回していた花岡が、しみじみと言って酒臭い息を吐いた。

「名前は、なんて言ったっけ?」
「律子……と申します」

そこへ「なあおい」と堪えきれなくなった様子で割りこんできたのは、花岡と同様、全身に好色な気配を漲らせた男・一条だ。

「あんたさ、何でこんなとこにいんの?」
優しさのかけらもない質問をいきなりぶつける。

「はい……それは……いろいろと事情がございまして」
「えっ何、旦那は、旦那はいるの? これ知ってるの?」

事情、と聞いて野卑な好奇心を剥き出しにした一条が、ややピント外れな質問で食い下がる。

「今は、おりません」
「今は? じゃあ、前はいたんだ」
「はい、……私立高校の、教師をしている方でした。立派な方です」
「ふぅん、で、なんで偉い先生の奥様だった人が、今は娼婦になってんの?」

ようやく質問の流れを戻した。

「それは……申し上げました通り、いろいろな事情で……」
「だからさ、その事情を聞かせろって言ってんだよ」

少し気が短いのか、だみ声を大きくして太い首を伸ばし、律子の顔を覗き込む。花岡がそれを煽るように、

「いいねぇ、不幸な身の上話ってやつ? チンチン勃ってきちゃった」

と言って空気をますます下世話なものに落とした。

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事実、花岡のヘチマのような男根は、浴衣を割って膳を倒さんばかりにそそり立ち、先端をぬらぬらと光らせて天井を睨みつけている。

律子がそれにチラリと目を落とした。

そして、分かりました、お恥ずかしい話ですがと言って軽く居ずまいを正した。

「ショーが始まるまでの余興に、お話いたします」

猪口に残っていた酒を一気に煽る。もともと潤んでいた瞳がますます妖しく濡れ、光っていた。

「いよっ、待ってました!」

一条が膝を叩いてガバと立ち上がった。そして身振り手振りを交えつつ節をつけるように、

「それでは只今より、元金持ち教師の奥様で、今は本番でもSMでも何でもヤラせる最下級娼婦に転落した、美人マゾ熟女律子の、不幸な不幸な身の上話を始めまぁす! はい拍手、拍手ぅっ」

そう言って自ら手を叩いて場末の司会者を気取った。
乗っかった花岡が小鉢を叩いて鳴らし、

「いやぁ、ソソるねぇ。堕落した美人妻!」

と調子を上げる。さらに学生風の男にも、「ほら、お前だって聞きてぇだろうが。初めてだからって緊張してねぇで、手ぇ叩くなりなんなりしろよ」と肩に拳骨を当てて無理やり拍手を促した。

学生風の男は気押されたように二、三度手を叩いてみせると、胡坐を組み直して背筋を伸ばし、締まらないなりに一応は聞く姿勢のようなものをとった。

律子が、小さく先払いをする。

そして訥々と語られたのは、こんな話であった。

(つづく)


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