魂の暗部を狙撃するSM情報ポータル SMスナイパー
▼ 読者投稿小説「熱い花蜜」【1】

作= 鬼堂茂


SM雑誌のグラビアに載っているモデルは高校生時代に憧れていた同級生だった!? 実在のモデルを元に妄想を膨らませて描いた投稿SM小説。久しぶりの対面、握った秘密、そして密かに育んできたサディスティックな願望......。危険な再会の果てに行き着くアブノーマルな愛の結末は如何に。『S&Mスナイパー』1984年4月号に掲載された作品を、再編集の上で全13回に分けてお届けします。


【1】同級生

騒々しい軍艦マーチと、煙草の煙がもうもうとしている店内を出ると、外は、十一月の肌寒い風が吹いていた。

(二浪もしていると、パチンコと麻雀ばかり上手になるな)

と、両手に抱えた景品を両替するために、竹野文夫は路地に入っていった。

両替所のある裏通りには、キャバレーやピンク・サロンがひしめいている。それとは対照的に、下北沢の表通りは、ファッショナブルな洋服を着た若い女性が行き来していた。

受け取った数枚の千円札をジーパンの尻ポケットに突っ込み、彼は路地の奥にある古ぼけた本屋に足を向けた。表通りには新しくできた本屋が白亜のファッション・ビルの中にあったが、そこは、若い女性が沢山いて、竹野が欲しい本を買うには、気がひけた。

古ぼけた小さな本屋は、文芸書や教育書はあまり置いてないが、ある種の雑誌だけは、下北沢のどの本屋よりも豊富にあった。店にある本の中から、無造作に「S&Mスナイパー」最新号を取ると、金を払い、竹野はマンションに戻った。

二浪目に入ってから恋人のいない竹野は、『プレイ・ボーイ』や『平凡パンチ』のヌードグラビアを見てはオナニーをしていたが、この頃では多少のヌード写真では性的刺激を受けなくなり、半年ほど前から、SM雑誌を買い始めるようになった。

竹野の住む「代沢マンション」は、小田急線下北沢駅よりも、井ノ頭線池ノ上駅のほうに近かった。バス付きの1DKだ。九州の福岡で教師をしている両親が、竹野のために借りてくれ、家賃とは別に、毎月十万円の仕送りがあった。

両親は竹野が東大に入ることを望んでいたし、竹野もそのつもりでいた。しかし、今年の春、自信を持って受けた東大の受験に失敗してからは、勉強にも身が入らず、だらだらパチンコや麻雀やオナニーに耽って毎日を過ごしている竹野だった。

来年は、私立の早大か慶大を受けることに決めていた。両親のガッカリした顔が眼に浮かぶが、これからどんなに勉強しても東大合格は無理だった。部屋のテーブルの上には、朝までやっていた麻雀のパイが、マットの上にバラバラに転がっていた。

徹夜麻雀とパチンコの疲れで、夕食を作る気力もなく、カップラーメンをスーパーの袋から取り出し、薬缶をガスレンジにかけた。煙草に火を点けて、ベッドに横になり、買ってきたばかりの「S&Mスナイパー」を袋から取り出す。パラパラめくっていた竹野の指がヌードグラビアで止まり、そこに写っているモデルを見て、竹野は唖然とした。

「秋子だ!」

思わず、声に出して、小さく叫んだ。

下着を剥ぎ取られて、ロープに縛られ、あられもない姿態のヌードモデルは、間違いなく、竹野の高校時代の同級生市川秋子だった。

雑誌には「古川秋子」と書かれていたが、竹野の知っている「市川秋子」に間違いなかった。
(続く)


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