作= 鬼堂茂
【4】再会
翌日、いつものジャンパーにジーパン、スニーカーという格好をやめて、ワイシャツにスラックス、コンビシューズを履いて、竹野はマンションを出た。
セーターを首に巻いている。秋子との約束の時間まで、まだ三十分あった。駅前の「マクドナルド」で、ハンバーガーを食べて時間を潰した。
約束の時間に改札口に行くと、秋子はすでに来ていた。秋子は、オフホワイトのワンピースの上に、マロン色に白のパイピングブレザーを着ていた。
長い髪が改札口を吹き抜ける風に揺れている。竹野に気付くと、秋子は手を振った。
「やあ、久しぶり。綺麗になったね。最初、判らなかったよ」
「ウソーッ。竹野君って、しばらく会わないうちに、お世辞が上手になったのね」
甘く甲高い声が弾んだ。
「お世辞じゃないよ」
そう言って、秋子の体をさりげなく観察する。オフホワイトのワンピースの上から、下に着けているベージュのブラジャーが透けて見えていた。
「どうしよう。喫茶店に行こうか? それとも、僕の部屋に行こうか?」
「そうね、喫茶店でもいいけど、せっかくここまで来たんだから、竹野君のマンションに行ってみたいわね」
「エッ! 僕のマンション、よく知ってるね」
「だって、住所録に『代沢マンション』って書いてあったから」
と、秋子は舌をペロッと出した。
「ああ、そうか。じゃあ、そうしようか」
そう言って、竹野は秋子と並んで歩き出した。
「代沢マンション」は、七階建ての、まあまあのマンションだ。玄関を抜けて部屋に入ると、部屋を見回した秋子が目を丸くして言う。
「へえ、竹野君って、意外に綺麗にしているのね」
「そうでもないさ、物がないだけだよ」
竹野は言って、サイフォンのアルコールランプに火を点けた。
「ねえ、煙草吸っていい?」
「いいよ、灰皿なら、こっちにある」
竹野は台所のテーブルを指さした。
「竹野君も、吸うの?」
「うん、たまにね。二浪もしていると、煙草吸うようになるね、どうしても」
「ふーん。あ、想い出した。竹野君、東大志望だったわね。クラス一の秀才だもん」
「よせやい」
竹野はアルコールランプの炎を吹き消して、カップにコーヒーを注いだ。その手がかすかに震えていた。
(続く)
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