作= 鬼堂茂
【5】罠
コーヒーの芳しい香りが竹野の鼻をくすぐる。
「うん、ありがとう。竹野君、まだ浪人してるの?」
「大学が、まだ来なくていいってさ」
「秋子は、確か、青山学院大だろ、女の子に一番人気があるんだってね。雑誌に書いてあったよ」
「そんなことないわよ、名前負けよ。渋谷や表参道に近いからじゃないの? それに、ちょっと勉強すれば入れそうなところに、人気があるんじゃないかな」
「ハハハ、ちょっと勉強すれば入れそうか、面白い言い方だね」
秋子も笑ってコーヒーを飲んだ。
「ところで、竹野君、来年、大丈夫?」
「さあ、どうかなあ」
「東大、ガンバッテネ。合格したら、プレゼントあげようか」
「プレゼント?」
「うん、私、秘かに期待していたんだ。竹野君なら、絶対東大に入れるってね」
「そ、そんなに、期待されると困っちゃうな。プレゼントって、何? それによっては、ガンバロウかな」
「何がいい」
「そうだな、何がいいかな......秋子でも、もらおうかな」
秋子を正視して言った。
「エッ、私!?」
と、秋子は言って、キャアキャア陽気に笑った。竹野もつられて笑った。しかし、その瞳は冷めていた。
「あっ、そうだ。秋子に見せたいものがあるんだ。ちょっと待ってて」
急に思い出したように、竹野は台所から部屋に行き、押し入れを開けた。
「なあに?」
「......」
押し入れを閉じて、台所に戻り、秋子の前に立った。
「これだよ」
背中に回していた腕を前に出し、秋子の眼前に「S&Mスナイパー」のヌードグラビアを突きつけた。その瞬間、秋子は口をポカンと開けて、信じられないといった顔で竹野を見た。
秋子の顔が、みるみる蒼ざめる。
「な、なによ! こ、これが、どうしたっていうの!」
蒼ざめた顔で、つっかえながら、怯えた悲鳴をあげた。
「これ、秋子だろ?」
「知らないわ!」
秋子の体が、自然と後に退がる。
「隠しても駄目だぜ。こっちへ来いよ!」
秋子の腕を強引に掴み、ベッドに突き飛ばした。
(続く)
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