暗黒色と肉食の痺れ 第1回
暗黒色と肉食の痺れ 第1回
赤ちゃんが欲しいという妻の言葉が悲劇の発端だった。
●情交の激しさ
警視庁H署に少なからず猟奇的な臭いのする通報が入ったのはまだ残暑を感じさせる日の続く9月も半ばの夜のことであった。
電話口に出ている男は、男女2人が男の家の寝室で死んでいる旨興奮した様子で声高に告げていた。死んでいる女は、電話をかけてきている当人の妻であり、死んでいる男は、見たこともない男とのことであった。
警察では、早速係官を現場に急行させた。電話が入ってから5分とたたないうちに、パトカー3台が通報者宅に横づけされた。署員を迎えたのは男1人であった。男は40代も半ばのようであった。係官らを見る目に何か怯えの色が浮かんだように思えた。だが係官らはそんな思いを分析している暇はなかった。人が2人死んでいるというのである。まず現場の確認と、事情聴取を済ませねばならない。
男に案内され、寝室に入った係官は思わず驚きの声をあげるところであった。布団が2枚ピッタリと隙間なく敷かれ、その上に今裸の男と女が横たわっていた。周辺には、ティッシュペーパーが散乱し、相当激しい情事の跡が歴然としていた。
男の話では、出張から帰って、ドアを開けても、中から何の反応もないので不審に思い家にあがってみた。いつもなら「お帰りなさい」と声をかけてくる妻の姿が見えない。おかしいな、買い物に出ているのかなと考えてはみたが、しかし、時間的にも遅すぎる。何の気なしに寝室を開けると妻と、見知らぬ男が布団の上に全裸で寝ている。驚いて声をかけても返答がない。ますます不審に思って、妻の体に触れてみると、異常な冷たさである。この瞬間、男は妻が死んでいることを悟った。もう1人の男も既に事切れていた。
それから後は夢中だった。何をどうして良いかわからなかったが、取りあえず警察に連絡をしたのだった。
係官らは男の話を聞いて、まず心中を考えた。二つの死体には、これと言って目立つ外傷はなかった。
周辺には、ティッシュペーパーなどが散乱し、情交の激しさこそ窺えるものの物盗りが物色した様子は認められない。男と女とが2人きり、全裸で布団の上で死んでいるのである。まず心中を考えるのが普通であろう。
事件が発生した時、捜査員らは虚心坦懐に捜査にあたるのが鉄則である。
この事件においても、最初、捜査員らは、心中かなとは考えたが、それはあくまでも一つの可能性としての考えであった。物盗りが巧妙に仕組んで、現場を造りあげたのかも知れない。あるいは、通報者で、死んだ女の夫と言っている男が案外と、犯人かも知れない。
今回の場合、男女2人共既に死亡しているのであるから、心中であるとなれば、一件落着である。もしそうでないとしたら?
これはまさに殺人事件である。捜査員らは現場検証すると共に、男から更に詳しく話を聞いた。
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