色魔の勲章 第4回【1】
色魔の勲章 第4回【1】
養子として虐げられた幼年期を過ごした男に宿った性への渇望。
●事件の顛末
安高が住んでいるアパートは、国電中野駅から歩いて十五分ほどのところにある。
仕事の無い日などは、駅近くのパチンコ屋や喫茶店で暇をつぶしていた。
五月中旬だというのに、七月半ばを思わせる陽気になった或る日の午後、安高は、彼の気がつかないうちに開店したらしい、小ぎれいな喫茶店を見つけ中に入った。
店の広さはそれほどのものではなく、客が十人も入れば満員となりそうなこじんまりとした、神経の行き届いた内装の店であった。
そこのウェイトレスが大石蔵子であった。
経営者は彼女の母親である。
母親はある財界人の二号であり、蔵子はその間に生まれた一人娘であった。
どうやらこの喫茶店は、男が母娘のために出資をしたものらしかった。
もちろん、これらのことは後に警察の調べでわかったことであり、安高も警察に逮捕されて初めて知らされたことである。
安高は一目見て蔵子に恋をしてしまった。
彼にとっては、女を好きになることなど中学を卒業して以来初めてのことだった。
たくさんの女達と情交の体験をもった今、彼は年齢の割に、女に対しては虚無的考えを持つようになり、女とは信用出来ない存在であると信じ込むようになっていた。
だが蔵子を見て、安高は初めて、この女を自分だけのものにしたいという気持ちを抱いたのである。
蔵子は、文句なしの美人であった。
プロポーションも申し分無かった。
すらりと伸びた足には、ジーパンが良くフィットし文字通り腰のくびれの下から真直ぐに伸びていた。
尻のふくらみも、日本人離れをした形をしており、キュッと上向きの、若い黒人を思わせる肉付きであった。
胸の隆起は薄いブラウスの生地を下から持ち上げ、客にコーヒーカップを渡すために前に屈んだ時など、真正面に坐っている者は豊かな乳房の片鱗をブラウスのすき間に眺めることが出来た。
顔のつくりも育ちの良さを感じさせる上品さを漂わせていた。
どことなく憂いを感じさせていたのは、彼女の母親が二号という家庭環境に育ったためかも知れなかった。
蔵子を好きになってしまった安高は、暇を見つけてはこの喫茶店に通った。
多い時は日に二回などということもあった。
流石に今度は、面と向かってあなたとセックスがしたいと言うようなことは出来なかった。
彼が店に居る時、大抵他に客もいたし、人目がある場合、安高はいかにも大人しそうな態度をとる人間だったからである。
何度か通ううちに蔵子の方でも安高の顔を覚え、暇があれば彼の席に近づいてきては、たわいの無い話をするようになった。
軽い冗談を言っては笑う蔵子を見て、安高はそろそろ誘って見ようという気になっていた。
もちろん蔵子に夢中になって通い続けていた間にも、彼は拡張員としての仕事先で、相変わらず女漁りをしていた。
これだけは、いくら安高がまともに女性を好きになったとしても変化の無い行いであった。
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