ハングリー国家 日本の悲劇【5】
ハングリー国家 日本の悲劇【5】
強姦未遂事件を起こした少年には母親との不倫の関係があった。
●調査官の直感
出来てからまだそれほどたってはいないと思われるマンションの一室が巨の住居であった。
担任の話では水商売をしているらしかったから、今の時間帯では、母親はいないだろうとの調査官の予想があたったらしく、チャイムを押すと、ドアを開けたのは巨であり、部屋の中には誰もいないようすであった。
「今晩は。巨君ですね。私は、家裁の調査官をしている山崎というものです。昨日連絡をしておいたものです」
「はい。神保巨です」
「少し尋ねたいことがあるのだけど、一時間ほど、つきあって下さい。これから暫くは、君とは大分会わなければならなくなると思うがね。はは、そう固くならなくても良いよ。私は警察官とは違うのだからね」
山崎調査官は、精一杯の笑顔をつくって、巨に話しかけた。
まず相手の懐に飛び込み、信頼関係を生じさせること。
これが、山崎調査官の信念であった。
少年達は想像以上に傷つき易い心の持ち主であり、相手を全面的に信頼するのでなければ、絶対に心の中を覗かせてはくれない。
ましてや相手が自分よりも一〇歳も二〇歳も歳上ではなおさらのことである。
それは、調査官が永い間の経験から会得したものだった。
「お母さんは、どこかに出かけているのかな。今日は君と二人きりで話がしたいのだけど」
「母は仕事に行っています」
「仕事というと?」
「バーです。渋谷の道玄坂にあろバーのママをしているんで」
「ほう。それじゃあ、しばらくは帰らないね。良かったら外に出ないかね。近くに公園があったように思うけど」
「はい」
調査官は、挨拶程度の巨との会話から、彼が母に関する話をするときに、何かしら、前後とは脈絡が途切れるような表情を浮かべるのに気付いていた。
――何かある――
そう調査官は直感した。
そして、今までに、大抵この直感が外れたことはなかったのである。
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