ベージュ色の襞の欲望 第2回
ベージュ色の襞の欲望 第2回
成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。
●性交目撃
被告人を死刑に処す。
昭和三十×年、東京地方裁判所刑事部は、箱崎成男に死刑を宣告した。
強盗殺人、強盗強姦未遂、強盗傷害で起訴された箱崎の弁護人には、彼が精神分裂症患者であり、犯行当時心神喪失の状況にあって、責任を問うことは出来ないと言う外に弁護の余地はなかった。裁判所はその抗弁を容れず、極刑を言い渡したのであった。
箱崎成男の父親は大酒飲みであり、酒乱であり、酔うと妻に対し、あたり構わず殴る、蹴るの乱暴を働いた。彼は毎日酒を飲んだ。したがって、妻は毎日、彼の暴力から身を守らねばならなかった。そんな生活に嫌気がさしたのだろうか。いや、それ以上に身の危険を感じたのだろうか。成男が五歳になった或る日、彼女は夫と成男を残し、その行方を断った。
以後、成男は絞首刑になるまで遂に母を見ることはなかった。父親は旅館の雇われ番頭であった。番頭とはいっても名ばかりで、実際は旅館の使用人に過ぎなかった。成男が物心ついた頃には、母親は彼と父親を捨て、その行方を断っていたから、成男の幼少時の思い出は、すべて父親及び彼の周囲の大人達が絡んだものばかりであり、母親の臭いのするものは全く無かった。
このような母親不在の幼少時の生活が、どんな影響を彼に与えたのかは、やがて引き起こす犯罪により推察のつくところである。
父親は、妻がいなくなってからますます酒に溺れていった。妻に愛想を尽かされたその原因を深く反省するなどということを望むことが、まず無理な男であった。
このような毎日を送っていれば、雇主からも愛想を尽かされるのは当然のことで、父親は働いては首になり、又、新しい職場を探すということを繰り返していた。だから成男は、父親に付いて北海道各地を転々とする破目となった。
成男は友達と遊ぶことの出来ない、孤独な魂の持ち主になっていった。無理もないことであった。家族といえば大酒飲みで酒乱の父親だけ。しかも父親の仕事場であり、又、生活の場でもある旅館は、大人達の集まる世界であって、成男が溶け込んで行くには異質すぎる世界であった。
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