奈津美・哀歌〜【1】
●奈津美のまだ男を知らぬ幼き蕾が、男達の手により徐々に露になっていく……。
奈津美・哀歌〜【1】
奈津美の父親が自殺したのは、一週間前のことだった。自分の経営する工場で首を吊っているのを、朝出勤してきた工員が発見した。父親の死体は先月購入したばかりのドイツ製プレス機のすぐ隣の柱から無惨にぶら下がっていたと言う。きちんと揃えられた靴の上に置かれた遺書には、多額の借金の返済に行き詰まった末の自殺であることが書かれていた。そして妻と一人娘である奈津美への謝罪の言葉でその遺書は結ばれていた。
父親の工場は前日に二度目の不渡りを出し、事実上倒産していた。その裏で手を引いていたのが、この地域の有力者である権堂であることを、町の誰もが噂していた。裏社会とのつながりを隠すこともなく、暴力とあくどい策略を駆使して莫大な資産を築いた権堂に逆らえるものなど、この町にはいなかった。
もともと重病を患っていた奈津美の母親は、父親の自殺を知ると、ショックで倒れ、入院してしまった。絶対安静の状態が続いている。
奈津美は、たった一人の肉親となった母親をなんとしても守らねばならないと決意した。苦労して入学した県下一の名門高校も休学して働くつもりだった。しかし、何のとりえもない一介の女子高生に父親の莫大な借金を返し、母親の医療費を稼げるような働き口があるはずもなかった。
そんな奈津美の元へ、権堂の使いを名乗る男が現れた。男は奈津美に、権堂の愛人となれば母親を手厚く看護して、借金の返済も待ってくれるという話を伝えた。
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