スナイパーEVE mobile

0302当世マゾヒスト列伝

マゾヒストとして生きる道を選択した男たちの物語 M男性におくる珠玉の電脳活字ワールド

金蹴りに魅せられた「玉男」さんの巻 第2回
08.11 14:30更新

masochist_tamao.gif

取材・文●松沢呉一
Text by Matsuzawa Kureichi

人間10人いれば、その風貌も性格も10通りあるように、一口にM男性といってもそのSM観、M嗜好は千差万別。マゾヒストとしてそれぞれが様々な思いを持ち、SMプレイにその人生の一部(あるいは全部?)を捧げている。
今回のゲスト「玉男」さんは、女性に股間を蹴り上げられることにこの上ない悦びを感じるM男性。気絶する一歩手前の痛み、男性なら誰でも経験しているであろうあの鈍痛を、自らの快楽に昇華させている氏に、「金蹴り」の肝を伺った。

★スケバンに蹴られたかった十代の頃

玉男さんが金蹴りに目覚めるようになるきっかけは小学校に上がる前の体験にあるのだという。

「自分でも、どうしてこうなったんだろうってよく考えるんですけど、はっきりとはわかりませんね。ホントにどうしてなんでしょう。でも、幼稚園の時に、そこにつながる経験があるんですよ。幼稚園で音楽をやっている時に、女の子が木琴をやっていて、僕ともう一人の男の子とでちゃかしていたんです。やんちゃなのが二人で。そしたら、その女の子が怒ってバチでもう一人の男の子を叩いたんです。その時に、『なんで僕のことは叩いてくれないの』って思った。そういうことを口にしてはいけないような気持ちがあったので、直接は言わなかったんだけど、心の中でそう思ったんです」

――その子のことが好きだった?

「いや、どういう子かも覚えてない。でも、そういう気持ちはなかったと思います。その時の情景だけをすごくよく覚えていて、とにかく寂しい気持ちになった」

かまってもらいたくてちょっかい出しているのに、自分がその女の子から認識されていないような、二人から排除されたような気持ちになったのだろう。ここまでは理解できる。

「その時はそれだけで、今度は小学校に上がってすぐくらいの体験につながります。同じクラスの男の子のうちの近くに帰国子女の男の子が引っ越してきたんですね。ひとつかふたつ年上で。その男の子が僕の友だちのタマを蹴るんですって。友だちは『あんなことをされるのはイヤだ』って言っていたんだけど、それを聞いた僕はやってもらいたいと思った。それから、友だちに紹介してもらって、一緒に遊ぶようになったんだけど、一度も蹴ってくれませんでしたね」

幼稚園の時にバチで頭を殴ってくれた寂しさを今度こそ拭いたかったのに、またまた仲間外れにされた寂しさを感じた玉男少年であった。

――ということは、もし、それが別の行為だったら、そっちに執着したのかな。

「そうかもしれないですけど、わかりませんねえ。そのうち、女の子を意識するようになって、いつの間にか女の子に蹴られたいという願望になっていく。それがずっと今まで続いているんです」

――性的なものとして意識するようになったのはいつ?

「オナニーを始めたのは小学校の高学年ですけど、その頃には、すでにそういうことを考えながらオナニーしてましたね。よく男がオナニーをする時は、女の子を犯すようなところを考えたりするっていうじゃないですか。僕は全然そうじゃなくて、自分の身近にいるクラスの女の子が自分のタマを蹴るところを考えていました」

――女の子にちょっかいを出して、女の子が怒って逆襲するわけだ。

「そうです、そうです。そういうことを考えていたし、事実、ちょっかいを出していたんですけど、誰も蹴ってくれないんですよ(笑)。中学、高校の頃になると、スケバンの全盛期で、スケバンに暴言を吐いて、次から次と蹴られることを想像してオナニーしてましたね。スケバンはさすがに怖くて、ちょっかいは出しませんでしたけど(笑)」

怖くない程度の乱暴な女の子じゃなきゃいけないわけだ。

「僕が10代の頃、テレビで『プレイガール』(註1)って番組をやっていたじゃないですか。沢たまきとか奈美悦子とか由美かおるとか出てきて、必ずアクションシーンがあって、悪い男たちを女たちがやっつける。その中に一回は金蹴りがあったんですよ。それを見て興奮してましたね」

最近リニューアル版の映画(註2)が話題になったが、オリジナルが放送されていたのは、私が小学校から中学生にかけてのこと。エロっぽいシーンが必ず出てきたため、親の前では堂々とは見られず、詳しくは覚えていないのだが、タイトルバックで、出演している誰かがミニスカートで蹴る映像が流れていた記憶がある。

「ミニスカートで蹴るのがよかったんですよ。今でもミニの女の子が蹴ることには興味がありますよ。スカートの中を覗く余裕はないですけど、シチュエーションとしては興奮します」

しかし、ここに至っても彼は実際に金蹴りをされたことはない。

「サッカーとかやってましたけど、ボールが当たるくらいのことはあっても、足で蹴られたことはないですね」

一度蹴られると、あの重苦しい痛みは二度と経験したくないと思うもので、彼がその行為を憧憬とともに温め続けることができたのは、ことによると、経験がなかったがためだったのかもしれない。

「たしかに、その帰国子女の男の子に蹴られていたら、こうはならなかったかもしれないですね」

註1:東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放映されていたお色気アクションドラマ。1969年4月から1974年9月まで放映。ちなみに奈美悦子と由美かおるは出演していない。玉男さんの記憶違いだと思われる。
註2:2003年に公開された劇場版『プレイガール』のこと。佐藤江梨子などが出演。

第3回に続く(「スナイパーEVE」vol.9より再録/2003年5月頃取材)





COPYRIGHT(C)2012
WaileaPublishing