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0302当世マゾヒスト列伝

マゾヒストとして生きる道を選択した男たちの物語 M男性におくる珠玉の電脳活字ワールド

金蹴りに魅せられた「玉男」さんの巻 第3回
08.18 14:30更新

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取材・文●松沢呉一
Text by Matsuzawa Kureichi

人間10人いれば、その風貌も性格も10通りあるように、一口にM男性といってもそのSM観、M嗜好は千差万別。マゾヒストとしてそれぞれが様々な思いを持ち、SMプレイにその人生の一部(あるいは全部?)を捧げている。
今回のゲスト「玉男」さんは、女性に股間を蹴り上げられることにこの上ない悦びを感じるM男性。気絶する一歩手前の痛み、男性なら誰でも経験しているであろうあの鈍痛を、自らの快楽に昇華させている氏に、「金蹴り」の肝を伺った。

★SMクラブで初金蹴りを体験

――実際に蹴られたのはいつ?

「大学の時です。今から20年以上前です。代々木にあったSMクラブに行ったんですよ。そこは安かったんです。学生ですから、そんなに高いところは行けない。バイトをしたお金をもってそのクラブに行ったら、今のようにオープンじゃなくて、真っ暗に近いような場所でしたね。でも、僕は蹴られた経験がないので、やっぱり怖いんです。蹴られたらどうなるか想像もつかないし、SMクラブに来たのも初めてだから、それ自体、怖いじゃないですか。だから、最初は手で叩くくらいでやめてもらって」

これでSMクラブが怖い場所ではないことがわかり、いよいよ彼は長年憧れてきた金蹴りを実践することになった。

「その店に行った三回目だったかな。それで初めてやったもらったんですけど、痛みは半端じゃなかったですよ。転げ回るくらいでした。でも、気持ちよかったんです。潰れたらどうしようと思っていたんですけど、潰れなかったし。一度やってらもらったら、『もういいや』ということになるんじゃないかとも思っていたんだけど、やっぱり自分はこれを望んでいるんだなって一回で確信しました」

――痛かったからよかった? 痛かったのによかった?

「大きく分けると、二つあると思うんですよ。ひとつは、女の人にそういうことをされているってこと自体の快楽ですよね。普通ではありえないことをしてもらっていることが嬉しくて快感になる。もうひとつは痛みです。でも、痛み全般が好きかというと、全然そんなことはなくて、他の痛みには弱いんです。だから、ムチも苦手なんです。あれって表面の痛みですよね。体の表面が焼けるような熱い痛み。僕が求める痛みは、男だったらわかると思うんだけど、おなかの中が痛くなるような重い痛みです。質が違うんです。他の痛みでは快感になりません。だから、ムチでタマを叩かれても気持ちよくない。表面が痛いだけで、蹴られた時の痛みは得られないですから」

――蹴り方にもいい悪いがあるわけだ。

「ありますね。今まで何十人かの女王様に蹴られてますけど、中でも、『菜の花』の月花さん(註1)が上手でしたよ。何が違うかというと、脚力も関係あるんだけど、蹴る角度や位置が大事なんです。強く蹴ろうとすると、ぶつかる位置がお尻の方にズレてしまうんです。寝た状態の方が蹴りやすそうですけど、下から蹴ると、絶対にお尻の方に当たってしまうので、立った状態の方がいい角度で入る。ほとんどの女の子は説明しなくても、足の甲で蹴るんだけど、中には、つま先で蹴るのもいるんですよ。つま先だと、タマが逃げてしまう。痛そうに見えて、意外に痛くないんです」

もちろんつま先でも痛いんだが、この痛さはムチと同じで表面的なものでしかなく、彼が求める重苦しい痛みにはならないのだ。

「靴をはいたままだと、つま先が骨に当たって痛いこともありますけど、その痛みは嬉しくない。その点、足の甲の方が表面積が大きくて、満遍なく当たる。タマの逃げ場がないので、痛みが大きいんです。だから、斜め45度くらいで入って、足の甲が直撃するのが一番いい。女王様はヒールをはいている人が多いので、必ず脱いでもらいます」

――スポーツをやっていた方がいいのかな。

「スポーツの経験があった方がうまい傾向はあります。女の人は、蹴るという行為自体、あまり経験がないので、足首が安定しない。うまく目標物を蹴れないし、弱々しいんですよね。サッカーでも、足首が安定しているかどうかで、ボールの飛び方が違う。それと一緒で、女の子は、蹴る行為が日常化してないから、下手ですよね。特にヒールをはいてやったら軸足が不安定だからズレます。そうすると、太股に当たってからタマに当たるので、そんなに痛くない。見た目が痛そうなのと、実際にどうかはけっこう違うんですよ。傍目で見たら、あんなの、痛いのかなと思っていても、意外に痛かったり。よく雑誌でも、上から足で踏みつぶしているようなのがありますけど、あれはあんまり痛くない。タマがうまく逃げますから」

――踏まれるのは興味がないんだ。

「いや、好きですよ。ただ、うまく踏めないですから、蹴られることとはまた違う。何軒目かに行ったSMクラブで、ストンピングというのか、女王様が上で跳ねたことがあるんですけど、タマにいかなくて、ペニスにいったんですよ。それで、ペニスが裂けて、病院に行って縫ったことがあるんです。そのまま言うわけにもいかないので、さんざん考えて、路上の喧嘩でやられたって医者には言って。医者は不審がっていましたけど、そんなことを言ったために、保険が使えなくて、全額自費だったんですよ。その時に初めて知ったんだけど、喧嘩での怪我には保険が使えないんですよ」

自業自得ということなのだろう。

「でも、暴漢に襲われたという話だったら、警察に届けなきゃいけないので、そう言うしかない」

註1:「菜の花」はかつて東京・渋谷にあったSMバー。月花女王は現在新宿にて鱗的憩処「13th」、フェティッシュサロン「salon5階」の経営のかたわら、SMイベント主宰やビデオ出演もこなすミストレス。

第4回に続く(「スナイパーEVE」vol.9より再録)





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