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0302当世マゾヒスト列伝

マゾヒストとして生きる道を選択した男たちの物語 M男性におくる珠玉の電脳活字ワールド

女性のための馬になりたい「馬之介」さんの巻 第3回
12.15 14:30更新

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文●松沢呉一
Text by Matsuzawa Kureichi

人間10人いれば、その風貌も性格も10通りあるように、一口にM男性といってもそのSM観、M嗜好は千差万別。マゾヒストとしてそれぞれが様々な思いを持ち、SMプレイにその人生の一部(あるいは全部?)を捧げている。
今回のゲストは、少年時代に見た西部劇に影響を受け、人間馬になることを夢見続けてきた「馬之介」さん。自作の拘束具などを披露してもらいながら、氏のSM人生について熱く語ったいただきました。

★初めてのSMプレイ体験

「日本にブーツが入ってきたのが、昭和30年代かな。森英恵がもってきて。そこから僕も長靴じゃなくて、ブーツフェチになりました。だから、僕は欧米風のSMに興味があったんですよ。当時の日本のSMは、縛りが中心で、コスチュームもなんにもなかった時代なんですね」

――長襦袢だったり。

「そうそう。『風俗奇譚』でも、日本の写真というと、麻縄に青竹。日本の写真でも、中には軍服姿にブーツはいてというのはありましたけどね。だから、アメリカのエネグとか、海外の画家が描いた世界に憧れていたんですよ」

『風俗奇譚』は海外のSM画、ホモ画をいち早く日本に紹介した雑誌でもあって、エネグもその一人だった。

「森下高茂さんという人がいて、谷貫太っていうペンネームももっているんですけど、その人が、フランス文学を日本語に訳していて、『風俗奇譚』にずっと連載していたんですよね。その中に、『ある名馬の物語』というのもあって、その人の世界と、私のイメージとはピッタリなんです。あとから森下さんと会う機会があって聞いたら、森下さんはそういう趣味はなかったらしい」

馬之介さんはガックリ。

小学校で長靴と馬に目覚め、中学の時には『風俗奇譚』を毎号熟読していた馬之介少年が、このまま平々凡々とした高校生になるはずもない。

「17歳の時に、今でもある店ですけど、新宿の『M』という店に行ったんです(現在は閉店)。これも、『風俗奇譚』で見て、一人で。ここはスナック形式になっていて、女王様がカウンターの中にいる。高校生ということは最初隠していたんだけど、若い男の子ということで興味を持たれた」

今だって、M志願の高校生といえば珍しがられ、かわいがられるだろうが、まして当時は、金のある中高年男性の集う場であり、20代だって来られる場所ではなかったのだ。

「プレイをするには、会員にならなければならないんだけど、その当時で入会金が5万だったんですよ。昔と今とで、SMの料金は変わっていない。如何に昔は高かったかということですけど。それで、『やってみない?』と誘われて、入会金は分割にしてもらって、バイトとこづかいで払ったんです。払い終えるまでには長い間かかりましたけどね」

とんでもない高校生である。今だって、こんなのがバレたら、学校でも何らかの処分が下されようし、店も未成年を入れたということで、営業停止になりかねまい。

「でも、プレイをしてみて、自分がイメージしていたものとのギャップがあまりにもありすぎまして、それ一回で、しばらくはプレイから離れていたんです」

第4回に続く(「スナイパーEVE」vol.2より再録/2001年8月頃取材)





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