文=横田猛雄
絵=伊集院貴子

【あいつリンタやげな】

先生たちのお尻を串刺しにした翌々日の月曜日の朝、登校すると教室中が何やら凄く沸き立っています。

ゲラゲラ笑っている皆に囲まれて、得意になって身振り手振りよろしく喋っているのは、橋向かいから来ている中道妙子という女の子で、話の内容はというと、例の英語の教師竹野誠、ことテスティスの秘密が完全に暴露されているのです。
実に克明に。
テスティス先生は淋病でヨコネが生えててきたので怒って、橋向かいの遊廓『浜田屋』へ、

「ようもこんな性質の悪い病気移してくれたなあ！」

と治療費を請求に行ったまではいいのですが、逆に浜田屋の女将に、

「こら、何寝言こいてけつかるんね、うちらはなあ、かりそめにもお上に正規の届け出して、看板上げてまっとうに商売さしてもろとるんやぞ、週一回の検診かてちゃんと受けとるのに、うちの妓が淋病移したとは何やそれ、聞きずてならんこと言うてくれるやんけい……、ほんまにもう盗人猛々しいとはこのことやぞ。
おのれこそ、どこぞでかっこの悪いリンタのようなもんもろて来やがって、何なら出るとこへ出て白黒はっきりさせよかあ！」

とやり返され、騒ぎに驚いて集まって来た隣近所の女郎屋の主人や娼妓のたちの前で、

「皆さん、よう見たって下さい、この餓鬼、大門（津市一番の繁華街、津観音の仲見世）か諏訪（四日市市一番の繁華街、諏訪新地）ででも安いパンパン買いやがって、みっともないリンタもろて来やがって、性質の悪いヨコネが生えてチンボが腐ってきてもとりますのやぞ。
こんなもん店へ上げたら店の妓にうつされるで、顔よう覚えといて絶対上げやんように気い付けなあきませんぞ。
この餓鬼、中学の先生やいうて偉っそうにしとるけど、皆さん笑うたって下さい。
こいつ示指の先へ空豆一つひっつけたみたいな出来損ないの貧相なチンボさらしてけつかって、そのくせと助平でしつこい変態性ですのやぞ。
オソソするたけでは済まんと、女の子にはケッツ舐めさしてくれて拝みますのやぞ。
うちの美佐子はおとなしいで、こいつにリンタ移されてしもうて、かわいそうにもう寝付いてしもて、暫く商売出来んようになってもたがな、かわいそうに……」

と大声でまくし立てられ、見物人にはゲラゲラ指さして笑われ、泡喰って逃げていったとのことです。

又その格好が蟹股で土龍みたいで面白かったと言って、橋向かいの街中では、銭湯や魚屋や八百屋で大変な噂で、又聞きの人までが、まるで実際自分の眼で見たように、身振り手振りまで入れての実演付きで話して見せるそうで、中道妙子さんは大人の話をそっくりその通り皆に身振りまで入れて報告しているのです。
（続く）