文=横田猛雄
絵=伊集院貴子
【死人のお尻の穴】
先に溺死者の肛門は開いているということを言いましたが、私の町は漁業の盛んな所で、まだ私が小学校に上がるより少し前に、同年の正幸ちゃんという隣の子が海で溺死したことがあり、その時のことを周囲の大人達が話していたのですが、正幸ちゃんは浅い所に俯伏せに浮いているのを、砂浜で水産加工の仕事をしている人達に発見され、抱き上げられてグッタリしているのを、誰かが、
「ケツの穴を見てみよ、イドコが抜けとったらもうあかんけど、締まっとったら助かる!」
と指示したので、両足を拡げてお尻の穴を見たら、
「アーッ」
と発声する口の形にお尻の穴がポカッと開ききっていたからもう助からん、死んでしまっていると分かったのだそうです。
イドコというのは伊勢湾地方で肛門のことを言う方言ですが、大阪の方ではオイドと言っているようです。
溺れて意識の無い人が助かるか、すでに死んでいるかを判別するのにはお尻の穴を見ればはっきり分かるのだそうてず。
ポッカリと口を開けているのはすでに筋肉が完全に虚脱してしまっているのですから、死んでいることが明白ですが、仮死状熊にある場合は意識が薄れたり意識を失ってしまっているので、括約筋は弛んではいますが完全には伸びきっていませんので、開いたお尻の穴から直腸の内襞が、バラの花のようにはみ出して、つまり直腸脱状態になってるそうで、そんな時は掌でそのはみ出した直腸を包むようにしてこすって徐々に中に押し込んでやりながら人工呼吸をすれば助かることもあるのだそうです。
私が死人のお尻の穴について写真による具体的な知識を得たのは学生時代のことです。
学校から警視庁の見学に行った時の事です。
昭和四十年だったか、その時、都内でトルコ嬢がホステスを刺殺するという三角関係のもつれによる殺人事件があり、法医学の資料としてその時の被害者の現場写真や解剖写真を見せてもらったことかあります。
現場写真では被害者を全裸にしてから現場に仰臥させ、俯臥させて写真を撮り、更に仰臥させて両脚を大きく拡げて膝を曲げて局部がよく見えるポーズにして撮影してありましたが、二十代の女性が眠っているように目を閉じて両手を拡げて両股を大きく開いている写真は雑誌などで見るどんなヌード写真よりも真迫力があってその顔は悲し気で私の脳裡から未だに去りません。
さてその被害者ですが、性器もお尻の穴も両方とも全開して口あけていました。
膣口の方は丁度バラの花のように丸く開いて内部の襞がはみ出しているのでロをあけた洞穴にはなっていません。
本当にバラか椿の花一輪を嵌め込んだような感じになっているのです。
それと対照的なのはお尻の穴の方で、こちらは俯伏せにして背後から撮った写真には、ポッカリと暗い空洞が開いており、丁度玉子がスッポリ入れられるくらいの穴が真ん丸くあいているのでした。
解剖写真はむごいもので、胴を縦に二つに割ったりした所は、精肉加工所の天井から吊り下げられた牛肉塊と全く同じで、白い脂肪の霜降りの状態など、それだけ見せられたら牛肉だと思うでしょう。
ナイフの刺さった深さ等を調べるためにここまでやる必要があるのだそうで、又痴情のもつれなど人間生活の裏の部分を調べるために、性器や肛門も徹底的に調べられるのだそうでず四十人の見学者が二手に分かれて、私達の方は若いホステスの死体の全裸写真を見せてもらったのですが、別の手の級友たちは中年女性の絞殺死体の写真を見せてもらったそうで、そちらのは、性器もお尻の穴も二つともポコッと空洞のように口あけて、両足を蛙のように拡げているのが面白いといって皆が笑っていました。
写真は死んだ後全裸にして股を拡げて撮るのですから、死後発見が遅かったりして死後硬直がすすんだ場合、無理に股を拡げるから不自然なポーズになるのでしょう。
私達の若いホステスの写真を見せられたグループの中には誰も笑う者はなく、皆が一様に、
「あのお姉さんはかわいそうだ……」
という感想を述べていました。
日本人の若い女住の全裸の仰向けの姿は、ほとんど乳房はふくらまず、少年のような胸をしているもので、それにあの顔、何とも言えぬ淋しそうな顔をしていて、あれだけ見ていたら眠っているようでしたが、
「これは死んだ人の顔だ」
と思うと、あの淋しさは、やるせなく、皆が、
「お姉さんはかわいそうだ」
といった言葉の中にすべて私達の気持ちがよく表われています。
今も忘れられません。
(続く)
上へ |
カテゴリ一覧へ TOPへ |
■広告出稿お問い合わせ ■広告に関するお問合せ ■ご意見・ご要望 ■プライバシーポリシー ■大洋グループ公式携帯サイト |