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▼ 大肛門狂時代 お尻の穴のお勉強【41】
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文=横田猛雄
絵=伊集院貴子


みんなが安らかに眠る朝まだ早い猛ちゃんの町に、突如としてけたたましく半鐘が連打されました。そうです、待ちに待った集団検便の序章を告げる、集団赤痢発生の合図だったのです。麗しい女医さんはガラス棒をアヌスに突っ込むわ、指を『の』の字でグリグリ廻すわで、こんな僥倖にはめったに会えるもんじゃなく、阿鼻叫喚の事態は更に続きます。


【便摘(指で)】

私がズボンのこわばりを手でかくしながらカーテンの外へ出ると、隣のカーテンからお姉さんも出てきました。
左端のカーテンの中に入った酒屋の奥さんはまだ出て来ません。
酒屋のお嫁さんは妊娠九ヵ月とかで、並んでいる時から大きなお腹をさすりながら、

「嫌やわ、こんな大きなお腹やのに、恥ずかしいわお尻の穴へガラスの棒挿し込まれるやなんて、うちもう何日もお通じあらへんから、かなんなあ……」

と小さな声でつぶやいていましたから、私はあの大きなお腹で歩くのにもフウフウいっているくらいなのに、あれで大きく両足を拡げて身体を前に曲げて、手で自分の足首を握るポーズをさせられたら苦しいだろうなと思って、子供なりにそのポーズを連想したりして、どうしているのかなとそのカーテンの方を見ると、お姉さんも同じことを思っていたとみえ、そのカーテンを振り向いて見ました。

「ああっ、こんな……中でカチカチに固まっとるからガラス棒で突いても全然付いてこんわ……、これは便摘やらなあかんけど、一人では無理やわ、すまんけど一寸手え貸して!」

とそこのカーテンの担当の女の人が、他の二人の同僚を呼ぶ声がしました。
私もお姉さんも、それから順番を待っている人達全員がそのカーテンに注目しました。
勿論カーテンで仕切られていて中は見えませんが、誰もが、臨月に近い大きなお腹を波打たせて大きく股を拡げさせられて、ガラスの棒でお尻の穴を突つかれている若い奥さんの姿を妄想して、猟奇の眼をそこに向け、明らかに好奇の眼で次におこる何かを期待しているのが肌に感じられます。
私とお姉さんを調べた二人がそのカーテンに入ってゆきました。
若い奥さんの担当の女の人はその二人に、

「この人妊娠中ですっごい便秘やから中でコチコチ、石みたいやわ、ガラスで突いてもコツンていうだけやから、ゴム手(手袋)はめて指入れてみたら一杯詰まっとるんやけど、固いで手におえんわ……」

と言いました。
三人の女性の中で、私を調べた人が一番の責任者みたいで、

「どれ私が中調べてみよか」

と代わって調べているようで、

「ああっ、これは凄い便秘やなあ、こんなに大きな固まりになってしもうたらこれは浣腸してもお尻の穴より太きうなっとるからこれは出やせんよ、一寸待って? こんな便秘の人はなあ、指こうやって根元まで一杯に入れてウンコをグリグリ突ついてやると中で動くので、その時いきんでもらうとウンコが肛門のすぐ近くまで下りて来るから……ああ奥さん、四つん這いよりお便所する時みたいにしゃがんでくれる?その方が採りやすいから……。そう、そうやってウンコする時みたいにいきんで下さい。ああ、下りてきた……。ウンコがロの所まで下ってきたら指を横に廻すと大抵ならウンコの奥の方に指が届くやろ? 普通の便秘のウンコなら、肛門に近い方は固くてコチコチでも、奥の方はまだ軟らかいから、そこを指で探ってやると手の先に付いてくるんよ、こうやって指を二本入れて中で鉤の手に曲げてこうコネ廻したら大抵は探れるんやけど、あれ、この人のは凄いわ、奥の方も硬い石みたいや、こんなんになったらえらいことや、あれ、一寸待って、ああっ、丁度ええ、何やらグミの実くらいの小さな固まりがあるみたいや、そうやこれを指で挟んで出そう、奥さん、もっといきんでみて! ああ、よしや指の間にうまいこと挟んで……、あれ、逃げるなあ、滑るのでなかなかつかまらんわ……、あんたら両方から奥さんの手を取って肩支えてそう、奥さんの身体が真っ直ぐになるようにしてやって! よし、挟めた、もう少しやから辛抱して、ああ、動いたらあかん、せっかくつかまえたのに又どこやら逃げてしまう、よしや、奥さん、ロで大きい息して!」

と三人掛かりで大変な難産(?)の様子です。
お尻の中をあちこちこね廻されているのが外から注視している私達にとてもよく分かります。
それは奥さんの

「あ――っ」

とか、

「は――っはっはっ」

とか吐く息や自然に出る呻きから、なまじカーテンで中が見えないだけ、何か生々しい拷問の場に居合わせているようで私達も胸がドキドキします。

「ああっ、ひいい、痛・痛・いた・いた・あひい、切れるう、もう止めてえ!」

と奥さんの悲鳴が火が点いたように一段と高く、切迫した時、皆の期待と動悸が最高潮に達し、奥さんの泣き声が、腸をでも抜き取られた瞬間のように、

「ヒエ――ッ」

と一声笛のように響き、床の上にコトッと何かキャラメルくらいのものを落としたような軽い音がして、

「ああやっと出たわ、ちっちゃいカケラがあったからよかったけど、大きな固りだけやったら器械でお尻の穴開いておいて削って掻き出さんならんとこやった、フウーッやつと出たわ……」

と言うあの眼鏡の女の人の声と、

「採れてよかったわ、さあ終わりましたよ」

という別の人の声がして、それと同時に奥さんのワッと泣き出す声がしました。
酒屋の奥さんは仲良しのお姉さんに肩を抱かれて、しゃくり上げなから公民館を出ました。
お姉さんは奥さんの気分をまぎらわすためでしょう、

「猛ちゃん、あんたチンチン握られたんとちがうか? 保健所の人か『おぼこい顔しとるくせに、何やこれ?大人顔負けやないの!』て言うとったよ、ちゃんとお姉ちゃん聞いたから……、猛ちゃんはほんまに誰が見てもびっくりするようなチンチンしとるのやなあ……」

と私を嬲りました。
奥さんは家に帰ると、

「わあっ」

と泣き崩れて奥に走り込んで、実家に帰りたいとかその日は酒屋さんは大変だったそうですが、二、三日したらやっと機嫌を直したようです。
お姉さんは、

「猛ちゃん、お尻の穴に指突込んでウンコを掻き出されるのを看護婦さんらは便摘て言うんやて」

と教えてくれました。
(便摘は通称で本当は摘便と言うのではないかと思います)

(続き)
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