文=横田猛雄
絵=伊集院貴子
【種豚のキンタマ】
中学校の美術の先生は堤先生というまだ独身の若い女の先生で、風景の野外写生で時々本山(専修寺)の境内など、校外に出ての授業もありました。
美術の時間は昼の休み時間の前ですから、私達は弁当を持って出て、休み時間を含めてほぼ二時間近く野外の写生をしたものてす。
その日の写生は学校の西にある小さな山、見当山へ行くことに決まりました。
見当山は山と言うよりも丘陵と言った方が正しく、生物学や地理学では
「里山」
と呼ばれる、人里に接した小山ですが、ここへ登るとあの大きな、何百畳敷きの本山のお堂までもが眼下に見下ろせる、近郷の小学校低学年の遠足コースになっている所です。
登り坂をガヤガヤ行くと山のすぐ下の松林に豚舎が出来ていて、キュウキュウと遠くからでも凄い声が響いてきます。
行って見ると三十頭くらいの巨大な白豚が狭い豚舎にひしめき合ってエサを食っている最中でしたが、私達がびっくりしたのは、こちらに一様に尻を向けている豚の、その股間にムックリと後ろにはち切れんばかりにとび出した実に巨大なキンタマなのです。
大きさを物にたとえると、そうです丁度夏ミカンくらいあるのが二個、ポコッポコッと後ろにとび出しているのです。
男生徒が一斉に、
「わあっ、大きなキンタマぶら下げとるがや……」
と喊声をあげたものですから若い堤先生は顔を真っ赤にさせながら、
「これ、阿呆なこと言うとらんと、早う歩きなさい!」
と、なるべく早くそこを通過させようとやっきになっています。
頂上に勢揃いし、先生の注意の後一斉に思い思いの所に散らばって夫々が写生にかかったのですが、絵の得意な私の近くには、いつも数人の同級生が集まって、皆私の真似して描くのです。
そんな中にあの玉置哲生がいつもいるのです。
あいつはかつて全校中に、
「わいら、ええこと教えたろかあ、横田が検便で、フリチンにさせられてケツの穴から試験管突っ込まれてババを抜かれて、ほれからケツの穴の写真も撮られたんやぞ」
とふれ廻った仕様の無い奴です。
そんな数人のグループで今日たちまちの話題になったのはさっき通ってきた山道で見たあの種豚の大きなキンタマのことです。
あれ二つ焼いて食ったらもう飯食わんでも腹一杯になるとか、真ん丸やったとか皆が感動を述べ合っているうちに話が段々別の方向へ向いて来て、誰言うと無しに、あの寺町通りの美濃屋の安の大ギンタマはさっきの豚のと違ってダランと下へ垂れ下がっとるけど、あれかて特別大きい、豚のは真ん丸でポコッとテンマリみたいに膨らんどるから、夏ミカンみたいな感じやけど、安のはどんなんやろ、グニャグニャやろか?重たいやろか?二つの玉はコリコリしとるやろか?一遍手で触ってみたらよう分かるやろうに……」
と言うことになりました。
私が、
「あれは脱腸やから腸がキンタマの袋の中ば入ってしもうて大きいなっとるんやぞ」
と言うと玉置や他の皆が、
「それでもあんな大きいのは滅多にあらせんぞ、実際にあの二つの玉を手で握ってみやんことには、勝手に想像しとるだけでは話にならんわ……」
と言い、それでは今日下校する時に一遍あいつのキンタマを実際に手でさわってみよやないかという話になったのです。
(続く)
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