文=横田猛雄
絵=伊集院貴子
【ハマッチ?】
上田先生は語ります。
「私が十八の時や、学校は夏休みで家にいたんやけど、父がその日はえらいあわてて、そう私の家もお寺で、うちの父はその頃地元の小学校の校長やったんやけど、今日はGHQの女の偉いさんが来るというので、役場ではどうしたらいいか分からんので、県庁や、県の地方事務所と連絡を取り合うやでてんやわんやだとのことで、父の従弟が造り酒屋で村長ですから、駐在さんや村の有力者が集まって相談した結果、小学校の視察と婦人会の視察が終わったら兎に角、一番屋敷の立派な村長宅で接待することに決まったんや。
私らも珍しいので表に出て見とると、警察がサイド・カー付きのオートバイで先導して黒塗りのオープンカーに凄く背の高い肩幅の広い、そうやなあ、今で言うと映画俳優のソフィア・ローレンみたいな女の人が二人乗って、その外にジープが二台で来て、黒山の人だかりの中を村長さんの家の中に入って行ったんや。
私は親類やで手伝いに呼ばれて行ったんやけど、その女の人英語がとても早ロで、それに通訳の二世のアメリカ人がまともに日本語が分からんもんやで、半分も言うてることが分からんのやわ。
そしたらその女の人が座敷から中庭を見て、あの狸が徳利提げとる焼き物が池の縁に立っとるのをしげしげと見て、いきなり、
「ハマツチ?」
て言うたんや、村長さんが聞き直すと何回でも、
「ハマッチ?」
て言うので、これはハマチの刺身を食べたいと言うんやるで言うので大急ぎで漁連(漁業組合)へ行ってハマチを集めて来て、皿鉢に山盛りにして出したら、
「ノウノウ」
て首振って顔しかめて全然手を付けやんやないの。
そしてその偉いさんらは言葉ではあかんと思うたんか、庭下駄引っかけて歩いて行ってその狸を二人して抱えてきて、何と床の間に据えて、さも惚れ惚れしたような顔でその大きな睾丸を手でさすったり頬ずりしたりしとるんやわ。
何や手振りで言うに、
「これいくらで売る?」
て言うとるらしいことが分かって、それからは村中はおろか、近隣の在所中から狸を一杯集めたらそのアメリカさん達度えらいこと喜んで、ジープの後ろに付けて引っ張って来た二輪車の荷物車、ディア・力ーで言うらしいんやけど、それに山と積んできた軍用の凄く大きなパイン・アップルの罐詰めや、分厚いチョコレートやバターやとか、一車分全部くれて、お金も言うだけきちんと払うて、それから何回も来ては狸を集めて本国に送るんやていう事やった。
゛暫くしてその狸が滋賀県甲賀郡の信楽で作っとるもんやと分かって、直接そこへ買いに行くようになったらしいけど、とにかく夥しい狸が貨車で信楽を出たということや、アメリカへは軍事便ではこんだんやろう」
(続く)
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