文=横田猛雄
絵=伊集院貴子
【進駐軍は神様】
村長さんの家の奥の座敷で、GHQの女性高官二人に、散々乗り潰された行信さんは、もうぐったり伸びてしまって、どれだけ頬ぺたを叩いて呼んでも、わずかに面倒臭そうに薄目を開けるだけで、それもすぐ閉じてしまって虫の息です。
自転車の後ろに来せて送って行く予定だった駐在さんも、これでは処置無しです。
仕方が無いので役場の男の人が数人で、戸板に乗せて送って行ったのだそうですが、伸びてしまっても電流ショックを受けたチンチンだけは人参のように硬く直立しているので、皆して寄ってたかって仰向けにさせて、腰の廻りに行信さんが着て来た浴衣を掛けたのですが、そこだけピンコ立ちしているので、海軍の下士官だった消防団長が、
「こらまるで潜水艦や、潜望鏡がピンと立っとるがな……」
と感心したように言ったので、役場の人や消防団員の人も皆大笑いをし、外でそれを見ていた婦人会の人達も、
「キャアキャア」
と突つき合いをして笑ったそうです。
かわいい息子が進駐軍に呼び出されたので、これは何か処罰されるに違い無い、と血相を変えて追いかけて来て、門前で気を揉んでいた行信さんの両親は、息子が戸板に乗せられて出てきたのを見て、ワッとそれに取りすがり泣き崩れましたが、消防団長から、
「生きとるから大丈夫」
と言われて、二人で抱き合って今度は嬉し涙です。
村長さんの家では二人のアメリカ人の女性高官は夕方までぐったりと伸びていたそうですが、日か西に傾く頃、
「あのラッキー・ボウイはどこへ行ったか?」
と言い、帰りには駐在さんの先導で、隣村の(今は伊勢市の一部になっている)行信さんの寺へ寄り、もう一台のジープに山と積んだ、軍用の分厚いチョコレートやココアや、大きなパインアップルの罐詰めやバターを、牽引車輛(ディアー・カー)一台分、ごっそりとくれて、腰が立たず、座敷に敷いた布団の上で伸びたままの行信さんを、二人で交互にいとおしそうに抱いて頬擦りし、
「オウ、マイダリン、サンドバッグ……」
と言って上機嫌で手を振りながら帰って行ったそうです。
行信さんはそれから三日ばかりは腰が立たず大変だったそうですが、家族は大喜びです。
何せ生まれて初めての豪華な進駐軍の物資を一車分礼にもらったのです、それにとにかく息子も生きて返してもらえ、なお息子はどうやら進駐軍のあの女の偉いさんに好感をもたれているらしいと分かったからです。
それ以来三年間、行信さんの寺の門前には、よく進駐軍の車が停まるのが見られ、時には行信さんがアメリカ女性に囲まれて、そのオープンカーで外出する姿も見られたそうです。
(続く)
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