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▼ 欧州フェティッシュジャーナル 【20】セーヌの船の上 フェティシストは旅する

文=アニエス・ジアール

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在仏カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアール&フランシス・ドゥドブラー。親日家でもあるお2人が世界のフェティッシュ事情をお届けしています。今週の内容は……フランスで初めて行なわれた、ロマンティック&フェティッシュなナイトクルーズの様子です。


2009年4月11日、『エラスティック・ナイト(柔軟な夜の意、フェティッシュ・パーティ、1998年より定期的に開催)』の11周年を記念して、フランシス・ドゥドブラーが船上でパーティを開催した。パリのモニュメント、橋、大通り、オベリスク沿いに、セーヌ川クルーズは2時間続いた。

それはフランスで初めて開催された、フェティシストのクルーズだった。橋の下をくぐる時は、道行く人々が声をかけてきた。照明が暗かったので、フェティシストたちのラバーの光沢は充分活かされていなかったけれど。

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私がパリに暮らし始めて20年、今までセーヌ川のクルーズはしたことがなかった。船旅は、とてもロマンチックだった。人はパリを「灯りの都」と呼ぶ。私は、初めてパリに訪れた観光客の気分だった。日本に来た時、「お花見」で同じ経験をした。パリでも、春の柔らかい風が吹いていた。私は橋の上から、水面を眺めていた。

船室の窓の後ろで、愛を交わし始める人がいた。抱き合いながら踊る人もいた。エラスティック・ナイトの間中、(このパーティのオーガナイザーで恋人の)フランシスが私のそばにいなかったので、ほんの少しだけ、ひとりぼっちの気分を味わった。

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フランシスは働き詰めだった。何時間かDJ をし、残りの時間は、パーティがうまくいっているか見回っていて、客の世話をしたり、ドリンクカウンターを手伝ったりしていたのだった。それに困った客や、その他の煩わしいことのせいで、パーティの間中、私たちは離ればなれだった。とても寂しかった。

友達のガエルとオリビエは、私が沈んでいるのに気がついてくれた。「何をボーッとしているの?」とガエルが優しく声をかけてくれた。

「恋人と一緒に居られたらなぁって思っていたの」「あら、フランシスは?」「フランシスは一緒じゃないの」「あなた、完璧な男を求めてるの?」とガエルはくすりと訊ねた。

(お酒を)一口飲む少しの間考えて、こう答えた。「(私にとって)完璧な男は、二面性があることね」

一面では、ロマンチックなパーティのオーガナイザー、もう一面はただ一緒に楽しいことをする人。ある一面では優しくて、一方ではひどく意地悪。私がスーパーで日用品を買うのにつき合ってくれるパートナーであり、未知の惑星からやってきた闇の王子、暗い目をした異邦人でもある。アドルファス・メカスの並外れた映画『ハレルヤ・ザ・ヒルズ』(1962年)のことを思い出す。それは二人の男と(一人は夏に、一人は冬に)つき合う、ある女の物語。

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私はガエルに言った。「ジキルとハイドのような『モンスター』が理想の男よ」「モンスターが好きなの?」ガエルは笑っていた。

その日は深夜1:30の最終電車に乗って、ずいぶん早くに帰宅した。

次の日、ガエルが私にギルヴィックの詩(※訳者注)を(メールで)送ってくれた。


『モンスター』 ユージェーヌ・ギルヴィック作

ひどく優しいモンスターがいる

優しい目を閉じて、向かい側に座っている

あなたの手の上に、ふんわりした手を重ねる


ある晩

宇宙の中、全てが深紅に染まる場所で

途方もない軌跡を示す岩のある場所で

モンスターは、めざめる

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<訳者註>
※詩:フランスで、「詩人」はどんな職業の人間からも憧れと尊敬のまなざしで見られる。言葉というものを何よりも大切にするフランス人にとって、詩人というのは別格の存在なのである。かのセルジュ・ゲンズブール(偉大なる作詞家)でさえ「自分が書くのは歌詞であって詩ではない」と嘆いていたという。


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