文=アニエス・ジアール
「S&Mスナイパー」本誌でおなじみの在仏カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアール&フランシス・ドゥドブラー。親日家でもあるお2人が、世界のフェティッシュ事情をお届けします! 今月は、1970年代に起こって最近にわかに復活したアートムーブメント『バズーカ』の動向についてレポート!!
1970年代、ドイツにはドイツ赤軍、イタリアには赤い旅団、そしてフランスには直接行動が存在した。政治的理由だけで簡単に人を殺すことのできるテロリストたちだ。デモのときは警察がこのテロリストたちを警棒で打ちのめし、何人かが命を落とした。
時を同じくして、日本も激しい時代だった。暴力的な音楽も生まれた。インダストリアルロックミュージックの夜明け。J.Gバラードは自動車事故と激しい死のエロチックな小説を書いた(訳者注:小説『クラッシュ』のこと)。
この時代、フランスでは『バズーカ』と呼ばれるアートムーブメント(運動)がおこった。バズーカは、ドラッグ仲間であり、反抗精神を持ったアーティストたちによって結成された。キキ・ピカソ、ルル・ピカソ、リュリュ・ラルサン、オリヴィア・クラベル、ベルナール・ヴィダル、T5dur、ロマン・スロコンブだ。
仲間同士、パンクの精神があった。医療機器で四肢を引っ張られる、下着姿の女の子。血まみれで美しい事故の犠牲者。武器で武装したセクシーな警官。 一種暴力的なファンタジーだけが、彼らの世界だ。飛行機事故は催淫剤になる。飛散するリビドー。
パリとベルリンでは、ダークで艶っぽい雰囲気のクラブでインダストリアルやエレクトロの美しいイベントが行なわれ、人は皆、ザ・ノーマルの『ウォーム・レザーレット(Warm Leatherette)』を高らかに歌う。
"ガソリンンの涙が君のほほを伝い ブレーキが、腿に突き刺さる 君が死ぬ前に、愛を交わそう(A tear of petrol Is in your eye The hand brake:Warm Leatherette 歌詞より)"
バズーカのアーティストは、バイオレンスなイメージを通してこのリビドーを爆発的に「伝染」させるのだ。バズーカの作品は創造のプロセスを匿名化しているので、バズーカとしてもしくは偽名でのみサインが記される。ジェリー・ルービン著『Do it!-革命のシナリオ』(そのメッセージは「もし何かを欲するならば、自分から行動せよ」に尽きる)にインスパイアされたバズーカは自分たちの作品をマス・カルチャーに浸透させた。レコードのジャケット、テレビ欄、新聞広告に体裁を借りた作品を作り始めたのだった。そのメッセージは「反乱を拡大させる」というもの。バズーカは、イデオロギーと支配的な意見を嫌って「Un Regard Moderne(現代世界の覗き穴)」という架空の新聞(0号を含む5刊が1978年に続けて発行された)さえも作ったのだった。
2009年6月20日、キキ・ピカソとルル・ピカソは、間接的でひねりのきいたスローガンで埋め尽くされた作品とともに、復活した。たった2週間、けれどとてつもなく長く感じられる、パリでの展覧会で。同時期に、作品を理解する鍵となる1冊の本を出した。『Engin Explosif Improvise(突然破裂する爆弾 )』だ。
↑『Engin Explosif Improvise(突然破裂する爆弾 )』 l'Association刊
彼等のメッセージはとてもシンプルなもの。「危険と隣り合わせだと思っているだろうか。自分が複雑で危ない社会に住んでいると思っているだろうか。1970年代、道端で人を殺すことができた。現在、我々は飽和と平和の時代を生きている。けれど、メディアは新型感染病や、失業や、テロについてさかんにはやし立てる。私たちが危険の中を生きていると思いこむ方が刺激的だからだ。自暴自棄にならないでほしい。操られないでほしい。恐怖は、人をコントロールする。恐怖は、感覚を麻痺させる。人を、内面から破壊する」。
「UNDERGROUND Un Regard Moderne」より。
私はかつて、一人の武士によって書かれた「恐怖を抱くいきさつ」について書かれた本を読んだことがある。この武士(宮本武蔵だろうか)は、こう書いている「子供たちに、怪談を話して聞かせてはいけない。強く、勇敢な子になるためには。夜を怖がるならば、世間に向かう勇気は絶対にないからだ」。(オリヴィア・クラべルが特別参加した)『Engin Explosif Improvise(突然破裂する爆弾 )』は、l'Associationから発行されており、全64ページ、ハードカバーの本で30ユーロする。
本屋『Un Regard Moderne(現代世界の覗き穴)』で買うことができる。
↑「SIMILI BOMB」(冗談としての爆弾): キキ・ピカソ作
↑パリでの展覧会(LAURENT ZORZN, ARTS FACTORY)で。
右がキキ・ピカソ、左が展覧会のオーガナイザー。
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