花嫁奴隷〜渚〜【5】
木製の棚に並んだ無数の瓶が、窓から射す稲光に照らされて、大小の濃い影を作っていた。
各瓶にはそれぞれラベルが貼られ、定規で書いたような几帳面な文字で中身が何なのかを告げている。
「智恵子・爪」「智恵子・髪」「智恵子・小便」「智恵子・唾」「聡美・爪」「聡美・髪」……。
個人名は瓶の中の体液や肉体の一部が誰から採取されたものなのかを示しているようだ。
他にはこんな瓶も並んでいる。
「精子」「爪」「髭」「鼻水」「涙」……。
物体の名称だけが書かれている瓶だ。
それらは他の誰でもない、瓶の持ち主の肉体から採られたものらしい。
瓶の数は全部で92本。
すべての持ち主は言うまでもなく、この屋敷の主・竜二である。
この夜、竜二は落ちつかない素振りで立ったり座ったりを繰り返し、座っている時には新しい瓶に貼り付けるラベルに小さな文字を書いていた。
ずんぐりとした体格。
数年前に流行った型の古びたサマーセーターにゴルフズボン。
袖口や膝に液体の浸みたような汚れがこびりついているが本人に気にしている様子はまったくない。
(つづく)
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