花嫁奴隷〜渚〜【8】
夜が明ける直前の濃い闇が屋敷をみっしりと押し包んでいた。
こんな時刻にどこへ行っていたのだろう、帰宅したばかりの竜也が黒い雨合羽から水を滴らせて立っていた。
竜二がソファで寝息を立てる部屋の隅である。
竜也は吐瀉物と割れた瓶の破片で無残に汚れた壁を見つめ、小さく震えていた。
「兄さん……」
そう呟く口元が歪んでいる。
「もう9人埋めたよ。俺は……俺はもう狂いそうだよ……」
返事はない。
代わりに降り続く雨の音だけが部屋を満たし、竜也を責めるように静寂を際立たせた。
「ご、ごめん……今片付けるから……」
竜也は雨合羽のフードだけを慌ただしく外し、飛散した汚物と瓶の破片を雑巾とちり取りで丁寧に回収した。
さらにキッチンへ行って牛乳を沸かし、2人分のココアを淹れる。
帰宅後、すぐに自分の分と兄の分のココアを入れるのが彼の習慣らしい。
竜也のほら穴のような瞳は何も見ていないかのように虚ろだが、身体だけは自動人形のように動いている。
不便さに気がついて雨合羽を脱いだのも、出来上がったココアをすべてカップに注ぎ終えてからだった。
(つづく)
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