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▼ 花嫁奴隷〜渚〜【8】

花嫁奴隷〜渚〜【8】


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「生贄おさな妻〜収集家の奴隷〜」(大洋図書)より
脚本=雪村春童
著者=芽撫純一郎

花嫁奴隷〜渚〜【8】

夜が明ける直前の濃い闇が屋敷をみっしりと押し包んでいた。

こんな時刻にどこへ行っていたのだろう、帰宅したばかりの竜也が黒い雨合羽から水を滴らせて立っていた。
竜二がソファで寝息を立てる部屋の隅である。
竜也は吐瀉物と割れた瓶の破片で無残に汚れた壁を見つめ、小さく震えていた。

「兄さん……」

そう呟く口元が歪んでいる。

「もう9人埋めたよ。俺は……俺はもう狂いそうだよ……」

返事はない。
代わりに降り続く雨の音だけが部屋を満たし、竜也を責めるように静寂を際立たせた。

「ご、ごめん……今片付けるから……」

竜也は雨合羽のフードだけを慌ただしく外し、飛散した汚物と瓶の破片を雑巾とちり取りで丁寧に回収した。
さらにキッチンへ行って牛乳を沸かし、2人分のココアを淹れる。

帰宅後、すぐに自分の分と兄の分のココアを入れるのが彼の習慣らしい。
竜也のほら穴のような瞳は何も見ていないかのように虚ろだが、身体だけは自動人形のように動いている。
不便さに気がついて雨合羽を脱いだのも、出来上がったココアをすべてカップに注ぎ終えてからだった。


(つづく)


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