花嫁奴隷〜渚〜【9】
白いTシャツにジーンズ。
ジーンズの裾は雨で濡れそぼち、Tシャツは大量の汗で肌にぴったり貼りついていた。
暑さのせいもあるが、半分は緊張からくる脂汗だと本人だけは知っていた。
突然、その背に竜二の低い声が飛び、薄い筋肉が硬くこわばる。
「竜也、それで10人目は?」
這うような声が竜也の全身に絡みつく。
「兄さん……俺はもう……」
やっと絞り出した声がかすれ、戦慄いていた。
竜也は、竜二が出す特定の声色をいつも恐れていた。
心の襞の奥深くまで分け入り、竜也が抱えるあらゆる秘密を「俺は知っているぞ」と脅迫してくるような独特の声。
その声が鋭く背中を打つ。
「10人目! 俺の嫁!」
振り向こうとした竜也の顔にソファのクッションが激突し、弾んでココアのカップをなぎ倒した。
「兄さん……お願いだよ、こないだの子だって申し分のない素敵な女性だったじゃないか! 『調教』なんかやめてくれ……もっと優しくしてあげればあの子だって……」
震える声で訴える竜也に、2個目、3個目のクッションが立て続け飛び、「やかましいわい!」と怒声がかぶさる。
(つづく)
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