花嫁奴隷〜渚〜【14】
竜二が渚の食事を持って地下室に下りた時、弟の竜也は自室で膝を抱えたまま目を閉じていた。
眠っていたわけではない。
何度も、何度も、同じ場面を繰り返し思い出していたのである。
それは夜道を歩く渚の後ろ姿であり、笑気ガスのスプレーを浴びて崩れ落ちる姿だった。
そしてぐったりと倒れ込んだ渚を抱え起こした時の、ずっしりと重たい、しかし柔らかで甘美な感触だった。
竜也は、渚の存在を犯行以前から知っていた。
竜也自身の感覚では、彼は渚に惚れていたのである。
犯行までの一年間、竜也は渚の顔を見るために、彼女の勤める居酒屋にたびたび顔を出していた。そしてそのたびに「初めてですか?」と聞かれていた。
そういう扱いを受けることに竜也は慣れていた。
子供の頃から「存在感」がないと言われ続け、自分でも時々「俺は透明人間ではないか」と本気で思うことがあった。
だから傷つきはしない。
その代わり、いつまでも相手を好きでいることができた。
竜也にとって、「好き」「惚れる」とは、通常人とは異質の意味合いをもっていた。
(つづく)
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