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▼ 花嫁奴隷〜渚〜【32】

花嫁奴隷〜渚〜【32】


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「生贄おさな妻〜収集家の奴隷〜」(大洋図書)より
脚本=雪村春童
著者=芽撫純一郎

花嫁奴隷〜渚〜【32】

「答えて!」

「あ……あ……」

渚に、すべてを見抜かれたと思った。
明確な意志も主張もない、核のない、弱い自分のすべてを。

自我が崩壊しそうになる。
どうすれば逃げられるのだろう。
どうすれば存在を許され、人に愛されることができるのだろう。

竜也の顔が苦しげに歪む。

「た……たすける……から……。俺が……たすける……から……」

「だったら今すぐ助けてよ! 縄を解いてここから出してよ!」

渚の怒号にハッと顔を上げた竜也が、狼狽した挙動で入り口を振り返り、「しっ、兄さんに聞こえる!」と、素早くベッドに歩み寄って手で渚の口をふさいだ。

「お願い助けて! 今すぐ……」

身体が勝手に動いた。
もがく渚の顔に体重をかけて強引に黙らせ、丸めた布を口に押し込んだ。
その上から豆絞りで猿轡を噛ませる。

「うぅっ……ううぅっ……」

「待ってくれ……そのうちきっとチャンスを見つけるから……それまで大人しく耐えていてくれ!」

混乱していた。
自分はなぜ、「助ける」などと言ってしまったのか。
それは本心なのか……本当にそんなことができるのか……。

目を見開いて自分を睨む渚に背を向け、竜也はおぼつかない足取りでフラフラと牢を出た。
渚の発する恨みがましい唸り声が全身にからみついて、どこまでもついてくるようだった。
(つづく)


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