花嫁奴隷〜渚〜【32】
「答えて!」
「あ……あ……」
渚に、すべてを見抜かれたと思った。
明確な意志も主張もない、核のない、弱い自分のすべてを。
自我が崩壊しそうになる。
どうすれば逃げられるのだろう。
どうすれば存在を許され、人に愛されることができるのだろう。
竜也の顔が苦しげに歪む。
「た……たすける……から……。俺が……たすける……から……」
「だったら今すぐ助けてよ! 縄を解いてここから出してよ!」
渚の怒号にハッと顔を上げた竜也が、狼狽した挙動で入り口を振り返り、「しっ、兄さんに聞こえる!」と、素早くベッドに歩み寄って手で渚の口をふさいだ。
「お願い助けて! 今すぐ……」
身体が勝手に動いた。
もがく渚の顔に体重をかけて強引に黙らせ、丸めた布を口に押し込んだ。
その上から豆絞りで猿轡を噛ませる。
「うぅっ……ううぅっ……」
「待ってくれ……そのうちきっとチャンスを見つけるから……それまで大人しく耐えていてくれ!」
混乱していた。
自分はなぜ、「助ける」などと言ってしまったのか。
それは本心なのか……本当にそんなことができるのか……。
目を見開いて自分を睨む渚に背を向け、竜也はおぼつかない足取りでフラフラと牢を出た。
渚の発する恨みがましい唸り声が全身にからみついて、どこまでもついてくるようだった。
(つづく)
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