花嫁奴隷〜渚〜【41】
渚も眼を覚ませば、やがてそうした女たちと同じ苦悶を味わうことになるに違いなかった。
「おーい、竜也!」
ふいに階下から竜二の声が聞こえ、竜也の身体が固まった。
「竜也、そろそろずいきを取り出して、あの子の身体拭いといてくれ!」
分かったよ兄さん――答える声がかすれた。
聞こえたのかどうか、竜二は「親父に結婚の報告をしてくるよ」と一方的に言ってガタガタ音を立てている。
外へ出るつもりのようだ。
屋敷の庭には亡父の慰霊碑があり、竜二はしばしば「墓参り」と称して興奮を鎮めに行く。
手を合わせるようなことはしないが、慰霊碑の前でブツブツ呟いている姿を、竜也は何度か目撃していた。
竜二なりに、結婚(実際にはとても結婚と呼べるような形態ではないが)に対してプレッシャーのようなものを感じているのかも知れない。
あるいは、暴走しそうになる自分の衝動を抑えようと苦心でもしているのだろうか――。
やがて玄関の戸を開け閉めする音が聞こえた。
竜二の気配がないというだけで屋敷の中が驚くほど静かになる。
兄がどういうつもりで外に出ようが、そんなことはどうでもいい――竜也は思った。
そして同時に、身の内から湧き上がる震えにカタカタと歯を鳴らした。
これから自分が何をしようとしているのか、それが突然、リアルなイメージとして竜也の脳に飛び込んできたのだった。
(なんだ……いまのは……)
竜也はもう一度、自分がイメージしたはずのものを頭の中でなぞってみる。
(つづく)
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