花嫁奴隷〜渚〜【52】
いきなり、竜也の片目の視界に竜二の顔が飛びこんでくる。
床に側頭部を打ち付けた竜二の目が、一瞬、竜也の瞳の奥を覗き込んだ気がした。
その直後である。
竜二の首がくの字に折れた。
首の上に、渚の小さな足がのっていた。
縄が切れたはずみで竜二に激突した渚は、その勢いのまま転倒した竜二を追い、かかとで首を踏み抜いたのである。
「あ……あ……」と竜也がかすれた声を出した。
その顔は人相が分からないほどに蝋で覆い尽くされている。
呆然と開けたままの口にも蝋が落ちた。
竜二が蝋燭を補充できなくなった以上、生き埋めになる恐怖からは解放された。
しかし動けないのでは死を待つ以外にない。
「な……渚ちゃん……たすけ……て」
まだ竜二の首を踏んだままの、無表情な渚の足に向かって声を絞り出した。
「い……一緒に……ここを出よう……」
そう言った。
が、返事はなかった。
いや、都合のいい返事など初めからあるはずもなかったのだが、竜也には、返事を待つ時間すら残されていなかった。
竜也が言葉を発した直後、首を折られたはずの竜二の腕が跳ねあがり、竜也の口に拳をめり込ませたのである。
衝撃で前歯が折れ、拳が口腔に深々と埋没して、竜也の呼吸を阻んだ。
竜也の鼻はすでに蝋で塞がれている。
明滅する景色の中で、竜也は渚の足がもう一度竜二の首を踏み抜くのを見た。
――ゴキッ。
意識が遠のいていく。
それは誰の意識だっただろうか。
闇一色に覆われていく世界の中で、渚のウェディングドレスの裾がひらりと舞った。
(つづく)
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