〜堕落妻・律子〜【19】
「うんっ、あんっ、うんっ、あんっ」
煙ったような瞳が、じっと自分を見ているように事務員風の男は感じた。実際に目を向けて確かめることはできない。身じろぎすることすらできないのである。ただ、胸の奥の暗いわだかまりがさざ波を立てる。
男は自分がこの場所へ来ることになった経緯を思い出していた。
花岡は同じ会社で働いている先輩である。部署は違うし話も合わないが、小さな会社ゆえに人間関係は濃い。自分にとっては迷惑でしかないにせよ、時々飲みに連れ出されるのは彼なりに後輩を可愛がってくれているということなのだろう。
一条は、花岡がつい最近盛り場で知り合ったという遊び人である。普段何をしているのかは花岡もよく知らないらしいが、今回の話を持ってきたのも一条だったという。「面白い場所があるから後輩を連れて一緒に来い」と花岡を誘ったらしい。
一条は、なぜ自分を一緒に連れてくるようにと花岡に言ったのだろう。大して面識もないのに……。思えば律子に昔話をさせたのも一条であった。花岡はただ無心にこの状況を楽しんでいるだけのようだが、一条には何か思惑があるのではないだろうか。しかし、そうだとしたらあまりにも悪趣味ではないか……。
「たまんねぇ、グイグイ締めつけてくるぜ。傘にビラビラが絡んできやがる」
花岡が顎を反らせて息をつき、打ちつける腰に捻りを加えた。
すでに律子の肉体は快楽の波にもまれて喜色にうねくり、あからさまな媚態を晒して縄を軋ませている。
「あの時も、やはりこうしてまっすぐに堕落していったのです」
追い詰めるように言うNの責め言葉も耳に入らなくなった様子である。
そして――とNが続ける。
「自分でも説明できない裏腹な気持ちの中で、とうとう、少しずつ精神を病んでいきました」
「ひっ、へっ……ぶふ……あっ、あっ……」
律子の喘ぎ声が低くなり、芯のないふわふわしたものになっていく。
「学生が……です」
事務員風の男がピクリと反応する。花岡は律子に両脚で腰を締めつけられて夢中で腰を振り続けている。
(つづく)
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