体験 台風と赤いハイヒール【1】
四人目の女 1
年末の大掃除の際、古いアルバムを出して整理していると、その中に昭和三十年初め頃の私が京都で某大学の事務員をしていた当時の写真があり、なんともいえぬ懐かしさを感じた。今回述べてみようとするのはその中の一枚、寄宿舎の玄関で寮生達を写したものがあったのだが、彼等の後ろに幼児を抱いて立っている三十前後の一女性についての話である。
問題の女性は、竹本多美子という名で、結婚前は京都のDデパートの店員をしていたことがあり、なんとなく男好きのする顔立ちで古い米画女優のクローデット・コルベールに似ていた。
彼女の夫はこの大学の岡崎分校の事務員をしている竹本という男で、私とはこの大学の同窓であった。卒業後、彼は一旦出身地である京都府下竹野郡の某役場に叔父の世話で就職したのであったが、二年たらずで退職し、出身校の先輩職員を頼って戻ってきたということである。人の噂では経理上で何か不正なことがあったという話だった。
学生時代、私と彼とはグループが違っており、顔見知りではあったが言葉を交わすことはほぼなかった。多美子はデパートの店員時代に大学のダンスパーティに遊びに来て紹介されて竹本と知り合い、彼が竹野郡の役場に勤めた頃に結婚したということだった。彼女の実家は寮から余り遠くないとかで、時々、その母親が来て孫と遊んでいることもあった。
(続く)
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