作=輪島市朗(29歳・会社員)
ソソる肉体
「もしもし、森下さんのお宅でしょうか? 私、205号室の輪島ですが、今から8月分の家賃を持って伺いたいのですが……」
「なーんだ、輪島さん。ヨソ行きの話し方するから誰かと思うじゃないの。えーと、今ネエー、お母さん出掛けているのよ。ええ、お店のほうだけど……」
亜矢ちゃんの可愛らしい声が私の耳をくすぐりました。
私が川崎市内にある、こじんまりしたアパート「葵荘」に引っ越して来たのは、2年前の4月のことでした。私は、もともと東京の蒲田駅近くに住んでいたのですが、同駅近くの行きつけの赤ちょうちん「亜矢」で、そこのママから今の葵荘を紹介されたのです。実はこのママが森下亜矢ちゃんの母親で、葵荘の経営もしているのでした。
毎月末になると、私は葵荘にそれほど遠くない亜矢ちゃん宅へ家賃を届けるのが習慣になっています。
「そうか、お店のほうに行く時間だったねえ。いや、実は近々出張して留守にするんで、払うものは払っておこうと思ってね。それじゃ今から伺うから亜矢ちゃん預かっててよ」
「いいわ、じや待ってる」
亜矢ちゃんと私は、もうすでに顔見知りでした。最初に会ったのは「亜矢」に手伝いに来ていた時でしたが、その後も家賃を払う際に数回顔を合わせて、お茶を御馳走になりながらママと3人で言葉も交わしていたのです。もっとも2人きり、というのは、この日が初めてということになりますが……。
私はさっそく麻縄、イチジク浣腸、バイブ、それに『S&Mスナイパー』9月号をバッグに入れて亜矢ちゃんの家へ行きました。
亜矢ちゃんはダブダブのTシャツに、豊かなお尻の線がはっきり見てとれる白のホットパンツ姿でTVを見ていました。TV画面は熱戦にわきかえる高校野球中継でした。
「亜矢ちゃんの卒業した高校はどうだったの?」
家賃を渡しながら、さり気なく聞きます。せっかくのチャンス、このまま何もしないで帰る手はありません。それに小道具をぎっしり詰め込んだバッグまで用意しているのです。
「あーら、私、女子高なのよ。だから野球部はなかったの。でも近くの高校の応援にはよく行ったわよ。ところで輪島さんの学校は?」
「いや、ウチの学校は全然ダメだね、毎年地方予選の緒戦敗退組の常連だから。今年? もちろん今年も例外じゃなかったようだね」
「あ、そうなの……」
亜矢ちゃんは気のない返事をしながら、再びTVに見入るのでした。私はちょうど彼女のななめ後ろからTVを見るような位置に座っていたのですが、もちろん私の目はTVなど見てはいません。
汗がにじんでいる亜矢ちゃんのうなじから肩、そして健康的に灼けたスラリと伸びている脚を粘るような視線で舐め回していたのです。
亜矢ちゃんの美しい脚は、おそらく日舞のたまものでしょう。ママは亜矢ちゃんに相当期待をかけているようでした。
ママの店に行った時など、「いっちゃん(私は市朗なのでママからこう呼ばれていた)、亜矢は、今に素晴らしいスターになるわよ。ええ、踊りのお師匠さんからスジがいいといわれてるのよ」とよく聞かされたものでした。
性格の不一致とかで10年ほど前に離婚して以来、女手ひとつで亜矢ちゃんを育ててきたママにすれば、亜ちゃんに期待するのも当然といえば当然でしょう。お店の名前を「亜矢」と名付けていることからも、十分それがうかがわれます。
日舞はもとより、歌謡学院で歌のレッスンもさせているということでした。
「ね、ね、輪島さん、ホームラン、ホームランよ。それもサヨナラホーム……」
亜矢ちゃんが歓声をあげて振り向いた拍子に、私が彼女の身体にいやらしい視線を投げかけていることに気づいたのでしょうか、亜矢ちゃんが語尾を飲み込みました。
しかしここで何か間違ったことを喋るとますますマズイと思ったのかどうか、彼女はまるで気づかぬふりで、
「私、お友達と約東があるの。プールに行くことになってるからもうすぐ出掛けなくちゃ……」
そうひとりごとのように呟き、いかにも帰ってくれ、という意向を私に匂わせるのでした。
「プールか、こう暑くちゃプールも混んでいるだろうな」
私のほうは私のほうで、わざと無頓着に呟きます。別に彼女に聞いてくれ、という調子ではなく、呟きを続けました。
「プールってずい分汚いんだってね。かわいい顔した子が、平気でシャーシャーとオシツコしながら泳いでるらしいし」
「まあ、いやねえ、輸島さんたらずい分汚いことを言うのネ」
軽蔑したように私を見つめる眼、そして口調は、私の言うことをつぶさに聞いていた証拠でした。
私はここにきて、はっきりとSM行為を仕掛ける時がきたことを確信したのです。
(続く)
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