作=輪島市朗(29歳・会社員)
ネッチリとした脅迫
「いや? 汚い? 亜矢ちゃんは、そんなことを言える資格があるのかな。亜矢ちゃんに比べりゃ、プールでオシッコする娘のほうがずっとかわいいんじゃない?」
「ど、どういうことよ輪島さんッ。お母さんがいないと思って変なこと言わないで頂戴!!」
彼女はピシャリと言いました。それは女性特有のヒステリックな物言いでした。
それでも私は平気でした。もっともっと怒れ、今にその鼻をあかしてやる、といった気持ちだったと言えましょうか。
「たしかにお家賃をいただきましたから、もう帰って。私、これからプールに行くんだから」
プイとふくれっ面をした亜矢ちゃんは、さも不機嫌そうに私を追っ払おうとします。美人は何を着せてもさまになる、とはよくいわれることですが、これは仕草についても言えるようです。この時の亜矢ちゃんの不機嫌そうなふくれっ面も、私にはとても綺麗に思えましたし、魅力的でもありました。
思わずそんな彼女の頬に、熱い私の唇を押しつけて吸ってやりたい衝動にかられたほどでした。
「亜矢ちゃん、亜矢ちゃんはとっても綺麗だし、おまけにスタイルもいいからモデルにスカウトなんかされるんじゃない? 特に雑誌なんかにね」
雑誌なんかに、というのをわざと大きい声で私が言いますと、亜矢ちゃんは一瞬、ピクンと慄えたようでした。
「わ、私、モデルにスカウトされたことなんかありませんッ!!」
自分に言いきかせるような強い調子で亜矢ちゃんは言い、そして私をにらみつけるのです。
「ほう、そうかねえ、私だったら亜矢ちゃんほどの美人は見逃さないんだけどねえ……。特にSMなんかのモデルには、最高じゃないのかな。ロープでぴっちり縛りあげたオツバイのふくらみ……ゾクゾクするだろうなあ……」
私はネチネチした感じで彼女に言いました。もちろん舌なめずりしたりして、わざとイヤラシク言ったのです。
彼女の顔は紅潮して、もう真っ赤でした。唇が怒りにワナワナと慄えています。そして、「帰ってッ、もう帰って!!」と繰り返すのでした。
「それじゃこれは一体誰なのかな。私の目の前の娘とそっくりに見えるけどねえ……」
いつ何時他人が訪れるかわかりません。そんなことがふと私の頭を掠めると自然に性急な気持ちにもなってきます。
「や、約束してッ、変なこと、変なことは絶対にしないって」
亜矢ちゃんは半ばべそをかいたような表情で私に哀願しました。
しかし、これとて変な話です。すでに“変なこと”は始まっているというのに。やはり彼女の頭の中は恐怖と羞恥で混乱しているのに違いありません。
「それから……」
彼女は上目遣いに私を見ながら言いました。
「それから? それから何んだい。早く言いなよ」
「ママに、ママには黙ってて。私、ママに内緒でモデルのアルバイトしたから……」
「どうせそんなことだろうと思ったぜ。わかった。わかったから早くそのTシャツ……そう、それとスキャンテイもとっちゃいなよ」
亜矢ちゃんは私の言葉を聞くと安心したのか、それとも腹を決めたのか、わりとスピーディーに着ていたもの全てをとりました。
(続く)
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