告白=峠一秋 (仮名)
野外撮影
フロントに鍵をあずけてから出かけてきた私はSM雑誌を一冊持っている。とりあえず当たって砕けろである。駄目でもともと。承知ならば折角準備してきた縄と時間が無駄にならないで、しかも楽しめるというものだ。 約束の喫茶店にエミは15分遅れてやって来た。
「ヌードだったら駄目よ、私。自信ないし、第一恥ずかしいもの」
私はヌードではない旨を説明するよりも、紙袋に入れたままの雑誌を見るように、目にものを言わせながらそれを手渡してみた。
エミは紙袋の中からそれを引っぱり出して表紙を見ると同時に、一旦袋の中へひっこめてレジのほうと後ろへ目ざとく視線をとばしてから、改めて表紙をめくった。
「そんな雑誌、今までに見たことないだろ?」
「……」
彼女は首をタテに振りながら、ただしばらく無言のまま、何頁かのカラーグラビアをハラパラとめくっていたが、やがて、「こんな写真のモデルって特別の人でしょう……」と、大きな瞳を私のほうにむけながら小声でいった。
「特別な人という意味がわからないけれど……、プロのモデルもいるにはいるが、私は使わない。自分の気のむいた写真しか撮らないし、金儲けでやるわけでないから……。私はエミちゃんが同好の志じゃないかなあと思って、頼んでみたわけなんだよ」
私は一気にこれだけ言って、冷たくなったコーヒーの残りを、一息に呑んだ。
「着衣でなければいけないなら、それでいいから、やってみてくれないか……」
「……」
しばらく真剣な顔つきになって、じっと電気スタンドをにらみつけていた彼女だったが、
「エミ、本当のところ興味あるのよ。でも、貴方のこと知らないし。秘密を守ってもらえるか、どうかも……」
ここで私はエミの言葉をさえぎって言った。
「だからいいのと違うかい。私はエミの本当の名前も住所も知らない。そしてエミは、私のことを知らない。だから大胆に振る舞えるのと違うかね」
「……」
「だからプライバシーは一切聞かないし、守るよ。写真上でも、顔はわからないようにするよ」
「それで、いつ写すの……」
「室内じゃないんだよ、昼間の野外だけど、絶対に人の来ない、山の中なんだ。明日の昼すぎ、どうだろうか」
「昼間……、人に見られたらどうするのよ。恥ずかしいわ」
「絶対人が来ないし、万一人が近づいて来ても、マントで包んでやるから大丈夫だよ。見られて困るのは私も一緒だから」
言いつつ私は、エミの顔をじっと見つめた。
(続く)
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