投稿者=匿名希望
【2】淑女からの思いもよらぬ頼み
痔というのは、なかなか人に言えない病気です。それに痔の痛みは痔になったことのない人にはわからない痛みです。そのせいでしょう、本来は赤の他人であるはずの私たちの間に、たちまち連帯感のようなものが生まれたのを感じました。
以来、文子さんは風呂に来るたび、私に向かって悩ましい笑顔を向けてくるようになりました。その瞳には(お互い、頑張って早く痔を治しましょうね)という無言のエールが込められていたのです。
帰り際には、少し話をしていくようにもなりました。文子さんの家にも風呂はあるらしいのですが、ご主人の出張が多く、自分だけのために風呂をわかすのは面倒だし、不経済でもあるからという理由で銭湯に通っているということでした。
私はだんだん、そんな文子さんのことを好ましく思うようになっていきました。が、もちろんそれはあくまで感じのよいお客様という程度の気持ちでしかありません。それ以上の妙な感情を抱いたことは、誓って一度もありませんでした。
ところがです。確か、初めて言葉を交わしてから2カ月ほどが経った頃だと思います、文子さんが帰り際に、こんなことを言ってきたのです。
「角田さん(私のことです)、実は折り入ってお願いがあるんです。今度、とってもいいお薬が手に入ったんですけど……それ……一人じゃお手当てができないんです。手伝っていただけませんか?」
私は驚きました。それは、文子さんから見れば私は無害なおじいちゃんでしかないかも知れません。でも男は男なのですから……。
「しかし、ご主人がいらっしゃるでしょう」
「主人は、ダメ。気持ち悪いとか、キタナイとか言って、一度だって手伝ってくれたことないんです……」
悲しそうにうつむく文子さんを見ていると、とてもむげに断わることができなくなってしまいました。これが痔とは違う、別の病気であればそんなことはなかったかも知れません。しかし痔持ち特有の寂しさを知っている私には、文子さんの辛い気持ちが分かりすぎるくらいに分かってしまうのですから仕方がありませんでした。
(続く)
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