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▼ 読者体験告白「一度だけのアバンチュール」【4】

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投稿者=良田博美(仮名)


夫に言えない性癖――。鬱積した欲求不満は、ある日、人妻を危険な行動に駆り立てる。初対面の男に熟れた肉体を差し出し、マゾの悦びに溺れていく淫婦の長い1日は、彼女に何をもたらしたのか。『S&Mスナイパー』1982年7月号に掲載された読者告白手記を、再編集の上で全8回に分けてお届けしています。


【4】見知らぬ駅に降り立って……

それは春、暖かい日だった。どこからか、れんぎょうの花の匂いが漂っていた。花たちも私に味方してくれているように思えた。家の者は、みんな出はらっていた。そして、安心して私は家を出た。

髪もセットしてあった。太っているのは、仕方がない。もう、子供のことや家のことで憂いうことはひとつもない。自分のするべきことは、すべて果たしてきたから。

3時間も汽車に乗って、H駅にふらりと降りてみた。学生時代にかえったように、私は少し長めの白い編み込みの上下を着ていた。胸元の紫の花の刺繍が上品に見えて気に入ったので買いもとめたものだった。赤いハイヒールをはいていた。

駅舎から出るとタクシー乗り場があり、その向こうにすばらしく磨きたてた黒の車が停車しているのを私は見つけた。私は昂揚していた。その車の運転席に乗っている男が、ひと目で気にいったからだ。

髪は無雑作に左に流しているが、きれい好きに見え、少しやぶにらみの感じが、かわいかった。小柄だが、手足は強靭に見えた。きっと私と同じくらいの年か、ひとつ下くらいだろうか。

羽織っている黒の服が、ビロードのような柔らかい光沢を放っていた。黒がよく似合う男だ。が、それ以上に私を強くひきつけたものは、男の尊大な態度だった。まるで殿様のように見えるではないか。

この男しかない。私は男の車に近づいた。そして泣きそうな声で話しかけた。

「私、この街、よく知らないんです。旅行の途中なんですけど心細くて――。少しの間、御一緒させていただけません? 旅行仲間とはぐれてしまって、私ひとりで帰らなくてはならない羽目になってしまいましたわ」

こころもとない様子で、目に涙をためてみせる。
(続く)


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