告白=小泉博敏(仮名)
【6】喫茶店のソファで
パチンコ屋の入り口ホールの真ん中で、いつまでも女を抱き締めている訳にはいかないし、さりとて、このまま立てば、こけしが抜け落ちる心配もある。
ボクは意を決してコートの裾に手を入れ、半分ほど抜けかかっているこけしを掴むと、一気に引き抜いた。
「はあっ!」
押し殺しているけれど、激しい悲鳴が恭子の口から発せられた。抜けないように一生懸命締めつけているのを、不意に強引に引き抜かれたからたまらない。恐らく、ここが人の居ない場所であったなら、恭子は絶叫したであろう。
ボクは、抜きとったこけしを隠すようにして上衣のポケットに入れた。ところが、乾電池が入っているスイッチボックスはアヌスバンドに絡げてあるのだ。アヌスバンドを外さないと、こけしだけを分離して取り出すことはできないと気がついた。
ポクは慌ててポケットから今隠したばかりのこけしを取り出すと、コートの裾を分けて、手さぐりでアヌスバンドの横に挟み込んだ。
ねっとりした粘液が、コートやポケットや、両手に付着していたがそれどころではなかった。誰かに見られはしなかったかと気づかうほうが先だった。引き続き二度めの冷や汗である。
恭子も、思いは同じようであった。壁際の椅子に座らせると、身を固くしたままキョロキョロと目だけ動かして周囲を探っている。人々は、そんなボク達には無関心でパチンコに打ち興じていた。
しばらくすると、恭子が少し腰を上げてもじもじしはじめた。
「どうしたの?」
ボクは、今の騒ぎでもの凄く恭子に親近感を抱いてしまった。やさしく聞いてみた。
「お尻の……」
顔を赤らめて、恭子はボクを見上げる。
そうだ。前のほうは抜けたけれども、後ろのほうは入ったままなんだ。それを硬い椅子に腰掛けたから……突き上げられて痛いのは無理のないことである。
ボクは、彼女を抱くようにして、パチンコ店を出た。ボクに腕をまわされて、恭子は満足気だった。
駅のほうへ十軒ばかり行った所に喫茶店がある。あそこのソファなら大丈夫だろう。それに、トイレは男女共用だから……。
店へ入ると、みんながじろじろとボク達を見ている……ような気がしてならない。
「ホット。2つ」
オーダーしてから気がついた。両手のない恭子が、どうやってコーヒーを飲むのか……ボクは慌てて、ストローで飲めるものに変更した。
「ね、先生え。痛いの……」
恭子は、今度は乳首の痛みを訴える。
それはそうだろう。さっきの、あの体勢では、乳首がもぎとられるほどの苦痛を感じているはずである。これまで他の事象に気をとられて感じなかったのが、改めて痛みが蘇ったのであろう。
「どうれ、見せてごらん」
左右に気を配りながら、恭子のコートの胸元をはだけて覗き込む。
や、これは痛いだろう。ボクは堅結びにしないで、一回結んだだけにしておいたので、引っ張られればそれだけ引き絞られ、水糸だからそのまま弛まないのだ。
つまり、だんだん強く締めつけていくだけになるのだ。その証拠に、乳首は糸が食い込んでいて、もうひと締めしたら、ぽろっともげ落ちそうな感じである。
乳頭は充血して、紫色になっている。
「どうして、こんなになるまで、だまっていたの?」
ほんとに、よく我慢していたものである。
「だって、先生に悪いから……」
ボクはもう、彼女が本当に可愛くなってしまい、その場で力いっぱい抱き締めたくなってしまった。
二人で、一緒にトイレへ入った。気がひけたけど仕方がない。ウェイトレスの連中、どんな想像してるだろうな。きっと、淫らなことをしている……と思っているだろうな……。いいじゃないか、そんなこと。誰が、どう思おうと構わない。第一、みんな忙しいから、トイレへ誰が入ったか、何人入ったかなんて見ていやしないよ……ボクは、大分、後ろめたさを感じていたようだ。
狭いトイレの中で、ボクはまず乳首をちょっと楽にしてやり、次に先ほど引き抜いた電動こけしを再挿入した。
恭子は、すべてから解き放たれて自由の身になれると思っていたのに、期待どおりにならず、ちょっとびっくりしたらしい。でも、文句を言ったり、抵抗したりはしなかった。
(続く)
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