体験 台風と赤いハイヒール【8】
愛の誓い 1
寮の建物は戦時中にできた洋裁学校の跡だとかで、モルタル木造のガタガタした小さい二階建てであった。
その前日、かなり風が強まってきたので、私は多美子に、「お母さんに電車が止まるといけないから早めに実家へ戻ってもらうように言いなさい」と命じた。
私の求めていることを悟った彼女は、来るべきアバンチュールを楽しむように、「明日は、早く来てね」と私の手をしっかり握るのであった。
翌朝、台風は四国を縦断し十一時頃兵庫県に上陸の予想、というラジオを私は聞いた。そしてタクシーを飛ばして寮に向かった。
多美子は私が来たのを知って急いで戸を開けた。
「あーよかった。うち、あんたが今日来いへんのか思うて、もし休まれたらどないしようか思うてたんや。大風やし、ガタガタして怖いし」
そう言って潤んだ瞳を向けてくる彼女を、私は強く抱きしめて唇を吸った。P号室でのエネマ以来、多美子の気持ちは竹本から離れて私のほうに大きく傾いていたのである。
私は初めて人妻と関係を持つというスリルに胸を躍らせていた。彼女も不倫の予感に興奮したのか、私の背中に廻した手に力がこもっていた。私たちはエネマプレイを重ねてはいても、まだ純粋な肉体関係は持ってはいなかったのである。
(続く)
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