告白=小泉博敏(仮名)
【8】痴漢を探して
恭子の額にはじっとりと汗が滲んでいる。羞恥に堪え、苦痛に耐えている汗である。
三つ四つと駅を過ぎていく内に、恭子の体のバランスのとりほうがリズミカルになったかと思うと、時々、目をつむって、じわり、と内股を締め付けるようにし始めた。
「痛いのか?」
ボクは、近づいて訊いてみた。
「ううん。え? ええ、ちょっと」
鼻声で一旦否定した恭子は、すぐに肯定し直した。
ポクはその答え方に、恭子の複雑な心と体の反応を見たような気がした。
不安定の中で安定を保つ為の努カが、埋め込んだ二つのものの刺激となって、痛さを通り越して快感となって恭子の身心を襲っているのではなかろうか?
羞恥の中の苦痛が慢性化して、快感に変化したということは多いに考えられる。
ボクは恭子の耳元で囁いてみた。
「気持いいのか?」
「いや。先生の意地悪」
恭子は、腰を捻ってボクの腰にぶつけてきた。
その途端、電車が、ガタン、と、揺れた。
危うく倒れそうになった恭子を、ボクは辛うじて支えた。
「大丈夫か?」
「うん」
「こけし、はまっているか?」
「……」
恭子の顔に血がのぼった。まっ赤になって一段と股をすぼめた。混むのを待って、山手線をほぼ一周したところで、夕方のラッシュアワーになった。朝ほどではないが、相当な混み方である。
ボクらも押されたり、突かれたりして、離れ離れになりそうになる。離れたら大変。恭子の目が、必死にボクにすがりつく。
恭子のコートが剥ぎ取られそうだ。予期していたこととは言え、気が気ではない。ボクでさえそうなんだから、本人の恭子はどんなにか、はらはらしていることだろう。恐らく、生きた心地もないのではないか。
ボクは、恭子の腰に手を廻してやった。ようやく彼女は安堵したようである。
そうこうしている内に、若い男が恭子と向い合いになった。痴漢行為を誘発させようと、ボクは恭子の脇腹をくすぐる。彼女は堪えきれずに、うずうずと身を捩る。
男は、怪訝な目で恭子を見る。
恭子は男と目を合わせないようにして、ボクのほうを振り返って話しかける。
「先生。随分、混みますわね」
せっかく、興味を持ち始めた若い男、視線をそらすと体を斜めにしてしまった。
うまく恭子に逃げられてしまったが、これは彼女のせいではない。向かい合ったまま痴漢行為をするほどの勇気を、男は持っていなかったであろうから……。
次の駅でひとしきり客が降りて、また、どっと、大挙して先を争いながら乗り込んでくる。ひと揉みしてからでないと落ちつかない。
揉まれている内に、恭子のコートの裾が何回もはだけそうになる。襟元が拡がりかける。その都度、彼女の顔が強張り、吐息が洩れる。
そうでなくても、人いきれで蒸し暑い車内で、羞恥と苦痛による緊張で発汗が促され、しかも、防水加工をした通気性の悪い厚手のコートを着ているのだ。はだけた胸に汗の玉が出来、それが流れて、ロープに泌み込んでいる。恐らく、恭子の全身が汗でヌラヌラ濡れていることだろう。
時々、恭子は顔をしかめる。人混みに揉まれる度に、水糸が乳首を引っぱるようだ。
「痛いか?」
「うん。でも、我慢するわ」
恭子は、しかめた顔を笑顔に戻した。
(続く)
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