満月の夜の吊り責め【9】
後編 夜明け前-4
白い石地蔵なども、何か不気味に見えはじめてきました。東の空がしらんでくるまでには、何時間もかからないでしょう。
岩室の中にとじこめておいた玲子も、もう許してやることにします。
やはり裸足のままですが、手錠と両足首を鎖の短いのでつないで、歩かせました。
歩くたびごとに、鎖のふれ合う金属音が聞こえ、それにはゴム引き布のマントのゆれ動く音が入りまじっているのです。私は静かな林の小径を車の止めてある山門のところまで下りながら、そのサディスティックな音を楽しんだのでした。
月は西の空に回っていました。私は車の駐車灯が見える右段の上まで来てから玲子の猿轡を外してやりましたが、鎖につながれたままの手を顔に上げて撫でまわしているだけで、なにひとつ声も出さず、静かにゆっくりと歩いて下りました。玲子はもちろん、私も言葉ひとつ出ないほどに疲れ切っていたのでしょう。
帰り道の間もなく東空のしらんでくるらしい夜明け前の国道を走りながら、玲子にきいてみました。
「苦しかったか?」
「今夜は死ぬかと思った……」
「そんなに苦しかったのか……」
「そうよ……今までのうちで、 一番くるしかったワ……」
それから、玲子はつづけてこうも言ったのです。
「でも楽しかったわ……とても苦しかっただけに、よけいに……」
月はまだ西の空に、その姿をはっきりと残しておりました。
(完)
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