作=羽鳥止愁
【10】
「せ、せんせい……」
「まあ、高津君の横に掛けたまえ。ゆっくり話そう」
「いやッ、来ないで。来ないで――」
「何を言っているんだ。君のその苦しみを解いてくれるのは羽田君なんだよ。羽田君にトイレに連れて行ってもらうんだから」
真鍋はデスクに座った。
「ひどい、ひどい。いやよ――」
許されない。こんな侮辱、辱めが許されるはずがない。いやだ。絶対にいやだ。
「羽田君、まあ椅子に掛けたまえ」
「……は……はい……」
犬の首輪、鎖をつけられ、椅子に繋ぎ留められている朱美の姿に、ゆかりは呆然、声もない。
「いつまでもそこにいたら高津君が余計に恥ずかしがるだけだ。いっそ、ひと思いに見てやったほうが彼女にも救いになるよ。朱美君、君からも頼んだらどうだい、トイレにつれていってくれってね」
「鬼ッ、気狂い。変態ーッ」
閉じ合わすことのできない羞恥の極地を羽田ゆかりに覗かれるなんて。イヤダ――。
「羽田君がこんな話を持ってきたのには少々驚いたよ。成績も優秀だし、ここにいる朱美君とは大違い、性格もおとなしい君が……。しかし、この就職難だ。四年制の女子大は特にひどい。少しでもいい会社に入らねばならない君の家庭の事情はよく分かるよ。二年前だったかね、お父さんが亡くなったのは。せっかく入った大学だからと、続けさせてくれたお母さんの苦労に報いるためにも、いい会社に入らねばならない。そこで、私の親戚がやっている貿易会社に無理矢理頼み込もうと思ってね」
ゆかりはうなだれたまま、真鍋の話を聞いていた。思い詰めてやってきた自分の覚悟を、さらに胸の中に閉じこめてでもおくように。
朱美の呻吟が激しくなった。
「羽田君、高津君は便秘気味だというんでね、今、浣腸をしてあげたんだ。すぐに出してしまっては効き目もないから、我慢させてあるんだが、いよいよ限界のようだ。君、すまないがトイレに連れていってやってくれないか」
「イヤッ、いやよ――。来ないで――」
「いいのかね。意地っ張りだね、君も。でも、そんなところに爆発されたんじゃたまらないからね、羽田君、足の手錠を解いてやってくれたまえ。その前に君も裸になってもらう。そのほうがお互い、遠慮がなくなっていいだろう」
俯いて、じっとしているゆかりの身体は小刻みに震えていた。
(続く)
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