作=羽鳥止愁
【12】
手錠を外し、足首と肘掛けとを結ぶ紐を解いてやった。
朱美は椅子にうずくまり、激しくかぶりを振った。チャラチャラと鎖が鳴った。
「先生、お願いです。こんな非道いことはしないで。鎖を取ってあげて」
「それはまだ駄目だ。その犬は兇暴性があるからね。馴らさなくちゃだめなんだ。後ろ手錠もそのままだ。それより、早く、トイレにつれていってやってくれんかね。そのドアだから」
と、トイレのドアを指差し、真鍋は続けた。
「朱美君に食い込んでいるアヌス栓を見たろう。それを抜いてやってくれないか。もちろんトイレの中でね。こんな所で抜かれたら、ほんとに、粗相しかねないからね」
「朱美さん、しっかりして、大丈夫? 歩ける?」
「ゆかりさん、口惜しいわ。私、くやしいわ。うう……」
「さあ。つれていってあげる。早く」
ゆかりに支えられ、朱美は立った。へっぴり腰で、下腹を突っ張らないように歩いた。ゆかりはそんな朱美の身体を両手で抱えて、鎖を上げてやった。
トイレのドアを開けて二人はびっくりした。立ちすくんでしまった。
煌々と輝く明かり。広いスペース。しかも便器は立った二人の眼の高さにあった。それも透明のガラス製だ。前面の壁には一面に鏡が張り詰めてあった。
「こ、こんな……」
朱美は唇を噛んだ。しかし、もう限界をはるかに越えている。
しかたがないわ朱美さん、という、ゆかりに促され、階段を登った。その階段もガラス製だった。朱美は便器を跨いだ。
「いい?」
「ええ、ごめん、恥ずかしいわ。見ないでね、眼をつぶっていて」
「大丈夫、見ないから」
「ああ……」
アヌス栓が抜かれた。朱美は座り込んだ。間髪を入れず、激しい選出が便器の底を叩いた。自分も目をつぶり、ゆかりも見ないでいてくれるであろうが、その音はどうしようもなかった。そして立ちこめてくる臭気。
キリキリと胸を締め付けながら、朱美はしかし、解放された排便の快さに酔っていた。我慢に我慢を重ねてきた排泄は、快美感さえ植えつけた。
しかし、透明のガラス製の便器は、すぐに朱美を羞辱の現実に引き戻した。
(続く)
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