作=羽鳥止愁
【13】
「流して、ゆかりさん、流して」
「それがないのよ。コックがないの」
「そんな」
手にしていたアヌス栓を足台に置いて、ゆかりは水洗のコックを探していたのだが、見あたらない。
「ああ、いや――」
己の汚物が漂う透明の容器を見て、朱美は悲鳴をあげた。
「仕方がないわ。早く出ましょう。さ、拭いてあげる」
「うう……」
「大丈夫よ、さ、お尻を出して」
「ごめんね……かんにん……」
後ろ手錠の身ではどうしようもない。お尻を突き出し、その汚れをゆかりの手に委ねた。
真鍋は一部始終をカメラに収めていた。その鏡がマジックミラーだとは二人とも気付くはずもなかった。
二人が階段を降りるとき、ドドドドと、その排泄物は水と共に流れていった。真鍋が隣の部屋でコックを操作したのだ。、驚いて振り返った二人であるが、訳も分からないまま、階段を降りていた。
「ねえ、この首輪とれない?」
「とれないわ。嵌め込まれてるから、鍵が要るみたいよ」
「ああ、くやしいわ。……でも、ゆかりさん、あなたが、どうして……?」
「訊かないで、私はどうしてもいい所へ就職しなければならないのよ」
「可哀いそうに。それにしてもあの変態じじい。ゆるせないわ」
「ねえ、何をされるのかしら。私、ただ一度眼をつぶればいいと思っていただけなの」
「私もよ。高を括っていたのだけれど、それくらいではすみそうにないわね。二人一緒に呼んだのも、何か訳がありそうね」
「こわいわ」
朱美はゆかりを見た。大丈夫、私が守ってあげるわ……。今の自分の身では大したこともできないけれど、せめて、できる範囲で守ってあげるわ、と思わせるゆかりのいじらしさであった。
「まだかね。終わったら早くきたまえ」
ドアをノックして、真鍋が声をかけた。
ゆかりはドアを開けた。
「先生、一体、私達をどうする気?」
キッ、と真鍋を見て、朱美が強い口調で言った。
「おやおや、さっぱりしたら、また、君の負けん気が出てきた。まだ調教が足らんようだ」
「せ、先生、こんなひどいことしないで、首輪を取ってあげて。あんまりだわ」
「君は優しいね。任せておきなさい。君の就職は責任を持つからね」
「……」
ゆかりは黙ってしまった。
(続く)
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